ドバイ・デザイン・ウィーク、レポート2


10月26日~31日までドバイで第1回目となるデザイン・ウィークが開催された。その様子をレポートする2回目。

▲ 夜のパビリオンの外観。板状のポリカーボネートの間に砂漠の砂を挿入することで、ランダムな砂の表情が意匠になると同時に、強烈な日差しからの日よけの役目を果たす


中東の中でも欧米からのアクセスの良さから、人、ものの移動のハブとなっているアラブ首長国連邦の街、ドバイ。初めて開催されたドバイ・デザイン・ウィークではこうした地の利を生かして、普段、見る機会の少ない中東アフリカ圏のデザイナーの活動を紹介する展示が印象的だった。

「Abwab(アラビア語で扉)」というタイトルの展示は、ドバイ・デザイン・ウィークのメイン企画。アラブ首長国連邦、クウェート、サウジアラビア、チュニジア、パキスタン、ヨルダン6カ国がそれぞれパビリオンを設け、「ゲームーー文化に見られる遊びの要素」というテーマでそれぞれの文化の違い、共通点を表現した。その中にはブランコもあれば、コマ回しといったおそらく万国共通(あるいはアジア共通?)の遊びもあった。政治的に見ると緊張関係にある国もあるなか、遊びでは心を通わす。参加6カ国のデザイナーが互いのパビリオンを訪れると「あるある」と共感する場面が見られた。

クウェートのパビリオンでは遊びをクウェートの建築家、オサマ・ハディードの手がけたピクトグラムで表現。クウェートで昔から遊んできた輪回し、コマ回し、あるいは馬飛びのピクトグラムは、日本人でも認識できる。生活習慣が異なっても子どもの遊びは共通ということが大きな発見だった。と同時に、ラスコーの壁画からすでに見られるピクトグラムはユニヴァーサルな視覚伝達言語であることを示してくれた。


サウジアラビアのパビリオンは、古くから遊ばれている戦略ボードゲームを空間全体を使って紹介した。起源はローマ帝国時代にまで遡り、日本では「石並取」と知られているこのゲーム。フロアクッションとスチール製の岩の形をした照明器具を駒にして、盤のモチーフを施したフロアに置くことで、インテリアそのものがゲームの場となっていた。アヤ・アル・ビタールがデザインし、商品化されているフロアクッションは上質なレザーを使い、鞍のように座り心地もよい。遊牧生活が長く、今でも床座の文化が浸透しているアラブ諸国だけでなく、日本でも受け入れられる家具かもしれない。あぐらをかく男性用、足を揃えて座る女性用という配慮もうれしいものだった。


凧揚げ、アルプス一万弱を歌いながら遊ぶ「手遊び歌」、そしてトラックに絵を施す“デコトラック”といった日本でも馴染みのある遊びはパキスタンにも存在する。パキスタンのパビリオンでは、空間をイスラム圏において女性や子どもたちの多くが集い、コミュニケーションの場として重要な中庭に見立てて、首都カラチで活躍するグラフィックデザイナー、アリ・ス・フセインを含む8名のデザイナー、アーティストが遊びのもたらす賑わいを伝統芸術の1つシルクスクリーンにプリントしたテキスタイルを吊り下げて表現した。


ゲームというと今はパソコン、スマートフォンなどのモニター越しの遊びが主流。それはアラブ諸国でも同じだという。そうしたなかで、体を動かし、他者とフィジカルに関わる遊びは「場」を生むものであり、いつになってもなくならないだろう。こうした遊びを現代的に解釈してみせた展示だった。(文/長谷川香苗)