6組のクリエイターがキュレーションする
「東京」 東京アートミーティングⅥ “TOKYO”-見えない都市を見せる

東京都現代美術館で「東京」をテーマにした企画展が開催中だ。東京オリンピック・パラリンピックを2020年に控えて世界中の視線が集まるなか、東京は“文化都市”としてどのような姿を見せているのか――。

今回は宮沢章夫、蜷川実花、ホンマタカシ、岡田利規、EBM(T)、松江哲明の6組がキュレーターとして立ち、それぞれが考える「東京」をテーマに作家や作品をキュレーション。いわば小さな展覧会の集合体であり、各分野で活動するクリエイターの視点、そして9カ国51組による作品を通して、東京における文化的側面を眺めてみようという試みである。


■“東京のオリジナル”が形成された80年代

1つのカギが「80年代」である。本展全体を統括する長谷川祐子氏(東京都現代美術館チーフキュレーター)は、「80年代は世界中からお金と人と情報が集まり、美術や音楽、ファッション、広告などさまざまな要素がリミックスされた“東京のオリジナル”が最初に浮上してきた時代。2020年に向けての現在というタイミングで、80年代のクリエイティビティが現代にどう引き継がれているのか、という観点が企画主旨にある」と説明する。

そこで会場ではまず“80年代の文化事象”としてYMOが紹介される。入口にYMOが海外公演をした際のポスターが並び、82年に日本で初めてできた原宿のクラブ「ピテカントロプス・エレクトス」でナム・ジュン・パイクや坂本龍一らがパフォーマンスをしていたときの音源が流れている。

▲ YMO+宮沢章夫による「文化事象としてのYMO」を紹介するゾーン。YMOの衣装やフィギュア、ライブ映像などを展示


これをキュレーションした宮沢章夫氏(劇作家、演出家)は、「僕なりの解釈による80年代の1つのキーワードは“かっこいい”とは何かということ」と話す。「YMOが体現していたのは、新しいかっこよさだった。その中身は、人間が本来もっている汗臭さや身体性を極力薄めた非身体性。それまでのロックバンドが髪を振り乱して演奏したのに対し、YMOの高橋幸宏氏は一滴の汗も見せないかのように平然とドラムを叩いていた。その様子はきわめて80年代的な傾向を示していた」。宮沢氏は一世を風靡したゲームソフト「ゼビウス」にも触れ、日本人がバーチャルな空間と非身体を獲得した時代の象徴であると説明した。


■海外から見た「東京」

本展には数多くの海外作家も参加している。続くゾーンは、ベルリンと東京を拠点に活動し、インターネットベースでの展覧会や視聴室を主宰するアーティストユニットEBM(T)が担当した。89年生まれのナイル・ケティング氏と90年生まれの松本望睦氏がキュレーションしたのは、ポスト・インターネット世代の若いアーティストたち。彼らのなかには東京へ来たことがない人さえいる。常にオンラインにある彼らにとって東京のイメージとは、サイバネティクスやロボティクスといった先端技術であり、欲望のままに動き続け死滅する粘菌の姿、あるいはダウンロードされ続ける建物やロゴマークで構成された仮想の都市風景である。既存の領域や文脈を超えた全く新しい感性による表現も注目だ。

▲ テイバー・ロバック「20XX」2013年
世界中に実在する超高層ビルやゲームメーカーのロゴを無数に合成した近未来の都市風景

▲ イェンナ・ステラ「組織/有機体」2015年
粘菌のスライムを用いて東京の都市構造を視覚化したもの。単細胞生物である粘菌は餌があるところに向けて最短ルートを導き出して移動し、動き続けた後死滅する

▲ TCF「300EFA3011E8DCBE15F9E1F1BDBAA63CDD3EDF82F63FB28F31F1BEE0E12C7CF9」2015年
ロボティクスをテーマに人工義手や小型ロボットなど東京発の先端技術をリサーチして、自ら撮影した映像を含む立体作品として構成した


フランスのサーダン・アフィフ氏は、自身が制作した彫刻を第三者に見せて歌詞をつくってもらい、さらに別の作曲家が演奏するという連鎖的なパフォーマンス活動を行っており、今回はその東京バージョンを実施する予定だ。また、既存の社会システムや公共空間をリデザインするプロジェクトを数多く発表してきたスーパーフレックスは、東京の都市空間をリサーチして人々が見過ごしていそうな事物を取り上げて批評的な提案につなげている。このように外から見た東京のイメージや、実際に東京に身を置いて活動するなかで見えた都市の側面は、2020年に向けた東京を考えるうえで興味深い資料となるだろう。

▲ サーダン・アフィフ「Her Ghost Friend スリー・トーキョー・セッションズ」2015年
提灯のオブジェをもとに日本のミュージシャンHer Ghost Friendに作詞作曲を依頼。2月に都内でライブも開催される予定だ

▲ スーパーフレックス「フラッグシップ・シェルター」2015年
上野公園をリサーチして見つけた礎石に着想し、表参道にある高級ブランドの建築デザインをホームレスのシェルターに流用するという提案


ほかにも原宿の竹の子族に始まり、現代のセルフィー(自撮り)投稿に至る自己演出の系譜を切り取った蜷川実花氏、東京を「飛べなくなった魔法のじゅうたん」になぞらえて空間を構成した岡田利規氏。東京発のファッションや住宅の模型、写真や演劇などの断片を同時に視野に入れることで「これからの東京を予兆させる景色」を見せたホンマタカシ氏など、気鋭のクリエイターが見つめるそれぞれの東京の姿が浮かびあがってくる内容だ。(文・写真/今村玲子)


東京アートミーティングⅥ “TOKYO”-見えない都市を見せる

会 場:東京都現代美術館

会 期:2015年11月7日(土)〜2016年2月14日(日)

開館時間:10:00~18:00 *入場は閉館の30分前まで

休館日:月曜日(2015年11月23日、2016年1月11日は開館)
    11月24日、12月28日~2016年1月1日、1月12日

詳 細:http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/TAM6-tokyo.html



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。