疾走し続けるアンダーカバーの軌跡ーーLABYRINTH OF UNDERCOVER “25 year retrospective”

ブランド創立25周年を迎えたアンダーカバー(UNDERCOVER)の軌跡をたどる展覧会が始まった。

胸元から切り離されたジャンパーや、パーツを解体したコート(1994-95 A/W)。本物のドレープ(ひだ)とプリントのドレープ柄を組み合わせたワンピース(1998 S/S)。生地を極端に引き延ばしたTシャツやジャケット(2004 S/S)――。

見慣れ、着慣れているベーシックな普段着のアイテムが、アンダーカバーの手にかかると全く新しい様相を見せる。1994年のショーで人々の度肝を抜いてから20年以上、日本はもちろんのこと世界のファッションの最先端をひた走ってきた。

▲ 1994-95 A/W(untitled)

▲ 1998-99 A/W「EXCHANGE」


ただ、本展会場の壁面にも「We make noise, not clothes」のサインが掲げられているように、デザイナー高橋 盾(じゅん)氏の意識は、必ずしも服をつくることのみに向けられてはいない。

発想の源はパンク・ロックに限らず多様な音楽やミュージシャンの生きざま、古今東西の映画、美術、コミック、広告、ファンタジーといった、現代にあふれる雑多なカルチャーの渦である。高橋氏自身が出会い、その心を動かしたものがすべて脳内に取り込まれ、体内を駆け巡り、最終的に「雑音(noise)」となって表出されるようなイメージだろうか。その「雑音」は服やショーに落とし込まれるときもあれば、写真集やインスタレーションなどのかたちをとることもあり、異業種メーカーとの協働プロジェクトに発展することもある。そうした多方面での活動が絡み合いながらアンダーカバーという「迷宮」をつくり上げている。

▲ 2013-14 A/W「ANATOMICOUTURE」

▲ 2014 S/S「GODOG」

▲ 2015-16 A/W「HURT」


本展の会場は大きく、過去から現在に至るショー映像を大画面で見せるスペースと、高橋氏が厳選したコレクションピース約100体を展示するスペースで構成されている。さらに、招待状やDM、コレクションのデザイン画、撮影で実際に使用した等身大フィギュアや舞台セットといった、同氏の脳内を垣間見られるような資料が散りばめられている。

▲ サーカス小屋をイメージしたエントランス。今月パリで発表したばかりの2016 S/Sのイメージにも重なる

▲ 34シーズン分のショーの映像を見ることができる

▲ ショーのインビテーションによるコラージュの壁

▲ スケッチやデザイン画、ノートなどの資料


前半の映像スペースでは服のみならず、音楽や照明、ステージから客席まで含む空間構成、モデル選びやその動き方に至るまであらゆる要素が緻密に融合し、1つの舞台芸術としても完成度の高いショー。たった1つのコンセプトを伝えるショーのために、その瞬間できることすべてを注ぎ込むクリエイターのエネルギーと精神力。筆者はファッションショーを見て初めて戦慄というものを覚えたほど、そこには力強く凝縮された時間と空間がある。

後半ではさらに緻密な作業の積み重ねによって成り立つクリエイションを間近に見ることができる。例えば1999年春夏コレクション「RELIFE」では、古着において「アタリ感」と呼ばれる、経年変化により布がこすれて白く色落ちする現象を、縫いつけた仮のポケットやボタンを染色・脱色後に再び外すという手間のかかる加工で引用した。

またパリデビューを飾った2003年の春夏コレクション「SCAB(かさぶた)」では、無数の端切れをパッチワークし、極細の糸をフリンジのように全面に施すなど、根気の必要な手業で人間が抱える傷みを表現した。近年ではニットの裏地に機能素材を揃えアウターとしてのニットを提案し(2007-2008 A/W)、服にLEDを仕込んでメッセージを浮かび上がらせる(2014 S/S)など、デザイナーが脳内のイメージを服(プロダクト)として実現するために材料や技術そのものを探究し、果敢に挑戦してきた変遷がうかがえる。(文・写真/今村玲子)

▲ 2011 S/Sで誕生したキャラクター「UNDERMAN」。特撮俳優を起用して懐かしいヒーローカードの体裁をルックイメージにした

▲ (手前の円形台)2005 A/W ARTS & CRAFTS (奥)2007 S/S PURPLE

▲ 1999 S/S「RELIFE」。モノクロームで統一されたコレクション

▲ 会場のラストに展示されたのは2009 S/S GRACEのためのもの。ショーを行わず、写真集『GRACE』を制作し、本格的なインスタレーションによってコレクションを発表した



LABYRINTH OF UNDERCOVER “25 year retrospective”

会 期:2015年10月10日(土)〜 12月23日(水・祝)

会 場:東京オペラシティ アートギャラリー

開館時間:11:00〜19:00 (金・土は11:00〜20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

詳 細:https://www.operacity.jp/ag/exh181/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。