REPORT | 建築
2015.10.26 11:26
昨年10月、パリにオープンしたルイ・ヴィトン財団の建築「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」の完成までを辿る展覧会だ。本展はフォンダシオン ルイ・ヴィトンの開館記念展としてパリでスタートし、その後、北京を経て東京で開催。会場では、“もやもや”とした手描きのスケッチに始まり、素材の検討の様を伝え、いくつもの模型を通して、フランク・ゲーリーの設計プロセスを辿ることができる構成になっている。
▲ 展示デザインもフォンダシオン ルイ・ヴィトンを覆うガラスの帆が連なったようなイメージ。展示プラン、什器はすべてゲーリー氏の事務所であるゲーリー・パートナーズが担当。それゆえか、ゲーリー事務所のなかに足を踏み入れて進行中のプロジェクトを見ているような臨場感が漂う
ゲーリー氏は効率よく設計を進めるために、実施設計を担当するエンジニア会社ゲーリー・テクノロジーを起こしている。さらに複雑なデザインを実現するために、フランスのダッソー・システムズ社が開発した3DモデリングソフトウェアCATIAを使用。航空業界向けに開発されたCATIAを使うことで、ゲーリー建築特有の1つとして同じ曲線のない曲面を生み出すために、どこでパネル割りをしたらよいかを分析し最適化しているという。
さらにゲーリー事務所は、ダッソー・システムズと協働してオリジナルソフトを開発。設計からファブリケーションの管理に活用する。例えば、パネル割りした各サイズの素材調達のために、世界各地のサプライヤーが持つデータを集積。標準化された部材を使っていないにもかかわらず、ゼネコンの手を借りることなく、無駄のない素材調達、工期の厳密な管理を実現しているのだ。これが、すべての建築プロジェクトを必ず見積り以内に抑えることのできる、世界で唯一の建築設計事務所と言われる所以だ。造形の芸術性だけでなく、コストマネージメントにも長けている点が、クライアントを惹き付ける1つの理由に違いない。
このように設計プロセスが合理化されるとはいえ、アイデアが模型となり、模型が完成形に至るまでの過程が簡略化されているわけではないことが展覧会を見ればわかる。奇抜とも捉えられるゲーリー建築の造形は、第一にアートスペース、音楽やパフォーマンスのためのホール、財団のオフィス、レストランといったクライアントからの要件をどのように配置し、収めるかを起点に始まる。この時点では手で押しつぶされたような柔らかな建物の外観はほとんど現れていない。
▲“ノアの方舟“を思わせるフォンダシオン ルイ・ヴィトンの模型からは、「フランスの深い文化的使命感を象徴する壮大なガラスの船」にたとえたゲーリー氏の言葉が想起される。12枚からなるガラス屋根は1枚1枚パネル割りされ、取り付け順序が重要であることからナンバリングされた
▲ 用途の配置、デザインの検討のために木材、厚紙、プレキシグラスを使って60近い模型が製作された
紙を使って、建物に収まる空間の配置を何度も検討しながら、レイアウトの方向が決まると模型がつくられ、その模型がスキャンされてCATIAでデータ化される。さらにコンピュータで造形を検討、変更を加えて3Dプリンターで出力し、新たな模型を検討。それをスキャンして再び手を加えるといったプロセスが何度も繰り返される。展覧会ではいくつもの模型を通して、段階を追って進む設計の様子をうかがい知ることができる。それはゲーリー氏の頭の中で幾度となくデザインが更新されたことを物語るようだ。
建築を実現させるためには、夢を持つ心のゆとりが、その夢を形にするためには、いくつもの壁を乗り越える強い心が必要だ。フォンダシオン ルイ・ヴィトンのプロジェクトもまさにそうだったことがうかがえる。
21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「建築家 フランク・ゲーリー展」と併せて観ることで、よりいっそう理解を深めることができるだろう。(文・写真/長谷川香苗)
▲ 夢を思い描くこと。ゲーリー氏の言葉が語りかけてくる
「フランク・ゲーリー パリ-フォンダシオン ルイ・ヴィトン 建築展」
会 期:2015年10月17日(土)~2016年1月31日(日)
開場時間:12:00〜20:00
会 場:エスパス ルイ・ヴィトン東京
東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン 表参道ビル7階
*入場無料