INTERVIEW | グラフィック
2015.09.02 18:23
武蔵野美術大学では2011年から学校案内のパンフレットやポスターといった広報用印刷物のグラフィックデザインを統一し、1年ごとにテーマを設定して展開しています。AXISでは同大学のシリーズ広告を掲載。毎回大胆に変化する色や動きを感じさせる構図に読者からの関心やコンセプトについての問い合わせが寄せられています。デザインを担当している、日本デザインセンターの大黒デザイン研究室 室長でアートディレクターの大黒大悟さんに、2014年度のシリーズのコンセプトについて聞きました。
武蔵野美術大学の広報印刷物をデザインするのは4年目とのことですね。
はい。1年目は膨張と拡散をテーマに色の美しさにメッセージを集約し、2年目は凝縮と醸成のイメージ。3年目は進化と融合というコンセプトでした。3年も続けていると見る方も慣れてきてしまうので、4年目はガラっと変えたいと思い「五感」をテーマにつくりました。ムサビは創造活動の場ですから、色がきれい、形が面白い、といった見る人の感覚に訴える表現でコミュニケーションをとりたい。校舎内にもポスターが貼られるので、学生に対しては創造活動の楽しさを伝えたいと思いました。
シリーズの中核を担うB全ポスター用のビジュアル(いちばん上の写真)は校内のほか駅の看板や全国の予備校に掲出される。また、入学案内冊子やオープンキャンパスの告知、広告や校内で販売されるペットボトルにも展開されている。
広告は6種類ありますが、それぞれ掲載の時期や順番などを意識してデザインされたのでしょうか。
はい。広告は一期一会なので、それを見た季節や、6種類が並んだときの面白さをイメージしながら、色やモチーフ展開を考えています。掲載号によってモチーフが変化していくので、あるときは口が喋っていたり、あるときは足で歩いたり、平面に動きが生まれればいいなと。五感を信じる大切さを伝えたかったので、ものの見方や感じ方を、それぞれに楽しんでもらえたら。また学生には「(五感を大切に)がんばって」と応援の気持ちを込めてつくりました。
AXIS169号(2014年5月1日発売)より。
今回のシリーズは手描きの表現が印象的です。
下地にカラーパネルのような形を敷いて、手描きでムラ感などを調整しました。神経質に細部を塗ったというよりは、粗く描いたというノリの方がいいかなと思いました。背景に丸とか四角、三角といったシンプルな形がなんとなく見えればよく、かっちり描いてしまうと味気ないのであえて崩しました。台形のような形も、よく見ると筒状をしていて目が覗き込んでいるな、とか、背景の形と線の部分の兼ね合いで自由に想像してもらいたかったんです。
AXIS170号(2014年7月1日発売)より。
大学のコース名が英語の筆記体で綴られているのも新鮮です。
B全ポスターにはコース名が全部入っていますが、広告では昨年度から入れるようにしています。ビジュアルがおおらかな分、細かい文字があると画面の“顔つき”が引き締まるので。文字はキャラクターと呼ぶくらいで、性格が出てくるんです。普段の仕事では既存書体を使ってかっちり見せることが多いのですが、今回は手描き要素が多く、文字も絵の一部として見せたかったので自由にさっと描いたような表現にしました。
AXIS171号(2014年9月1日発売)より。
全体的に計算しつくしたというよりは、自由に要素を並べたようなつくり方が、シリーズのテーマである「五感」にもつながりそうですね。
今のデザインやアートは、「わからせる」ことが主流になっている気がします。そうではなくて、「感じる」デザインというものが成立するのではないかと思っています。
クライアントが企業ですと「この形の根拠は」「なぜこの色を選んだのか」と聞かれるし、僕も言葉を尽くして説明するのですが、ムサビの場合は実験と提案を受け止めてもらえるので、わかるというより感じることに重きを置いてつくることができたんです。広報の方も「五感というテーマはとてもよい」と言ってくださった。人の身体という身近なモチーフについても説得しやすく、「“目”はしっかり見るということですね」とポジティブに解釈していただきました。
AXIS172号(2014年11月1日発売)より。
ところで、大黒さんはデザインのプロセスにおいてどんなことを重視していますか。
なるべく直感を大事にしたい。デザインの作業をしているとたくさんの可能性が見えてくるので、どこかのタイミングでそれらを断ち切ることが必要です。考えたり、勉強しながらつい深く広く色々と見てしまうのですが、あれもこれもとなったときにリセットして「今回、いちばんやりたいもの」を直感的につかみ取ることをどの仕事においても大切にしています。もちろんクライアントに対しては言葉で説明しなければならないときもありますが、最後まで貫ける気持いいブレイクスルーというのは実は最初に自分が直感でいいなと思ったものだったりする。なるべく素直にやろうって思っています。
それに、良いデザイン、良い仕事をするには良い休暇が必要と思っているので、休日には全く違うジャンルのものを見にでかけたり、食事を楽しんだりします。それらの見た目というより、自分が好きだな、気持いいなと思うものが醸し出す世界観を大切にしたいと思っているんです。
AXIS173号(2014年12月29日発売)より。
大黒大悟/1979年広島県生まれ。2003年金沢美術工芸大学視覚デザイン科 卒業後、日本デザインセンター入社。原デザイン研究所勤務を経 て、11年大黒デザイン研究室設立。平面から立体、映像、空間 までさまざまな文脈でアイデアと造形の実現を展開している。 15年8月には、アートディレクションを行っている「TAKAO 599 MUSEUM」が 高尾 山に完成する。JAGDA新人賞受賞、東京ADC 原 弘 賞 、D & A D 金 賞 ほ か 受 賞 多 数 。
http://daikoku.ndc.co.jp
AXIS174号(2015年3月1日発売)より。
2015年5月1日発売のAXIS175号より、武蔵野美術大学の2015年度広告シリーズを展開中です。
武蔵野美術大学のホームページはこちら。