第7回
「ヨーガン・レールさんのプロジェクトから」

「これを使って照明をつくりたいのです」と、大量に集められた色とりどりの、若干色あせたプラスチックのパーツを見せられたのは約5年前。私が照明メーカーに勤務していたときのことです。相手は、オリジナルのテキスタイルやジュエリー、家具、器など幅広いデザインを手がけるヨーガン・レールさん。

ヨーガンさんは、石垣島の海岸に打ち寄せられたプラスチックの、いわゆるゴミと化したものを拾って東京まで持ってくるということを何年も続けていました。最初は、いったい何をしたいのか、デザイン活動とは別に作品づくりをしたいのかなどと意図を探し、思いを巡らせたものです。しかし、そこから真剣に考え向きあっていかなければいけない課題がスタートしたのです。

昨今、環境に対する配慮は当たり前で、ゴミを減らそう、リサイクルに努めようということ、私たちも日常的に考えます。それでも、工業製品はもちろん照明器具も次々に生産され、規格に合わないものや不良品、そして製品寿命を全うしたものなどからは、完全には再利用されず廃棄処分されていくものも出てきます。アップサイクルや再生されていくものは全体の何割になるのでしょうか。

気づくと、ヨーガンさんが収集してきたプラスチックのゴミは相当な数となっていました。ペットボトルから台所洗剤の容器、漁網から浮きまで種類もさまざま。環境へのメッセージであれば、それらを芸術性のあるオブジェなどに転換し、それなりに発信すれば注目され、環境問題に対して一石を投じることもできたでしょう。でも、ヨーガンさんの目的はそうではなく、「オブジェにしたらまたそれはゴミになってしまう。実用的なものにしなければ意味がない」という想いでした。プラスチックのゴミで照明をつくり、それを本気で商品として販売することを目標にしていたのです。

ゴミがそのままゴミに見えてしまう照明ではなく、全く違う視点で描かれたスケッチは、とても繊細で素敵なものでした。光源はすべてLEDを使いたいということ。熱に弱い劣化したプラスチックには適した光源です。これを本当に製品化できるとしたら、とても画期的なことだと思いました。しかし、問題が発生します。国内で正規に販売される照明器具には、耐熱やさまざまな衝撃に耐え得る条件が課され、製造者責任を示すPSEマークを取得することが必須。生産および販売元による保証が伴います。廃材でつくられる照明器具に対してのリスクは想像できます。よって、照明メーカーの立場としてはなかなか一歩を踏み出せない状況となり、最終的にヨーガンさんの想いをかたちにできる、照明製作に携わる人々を個人的に紹介することにしました。

都行燈が製作を担当した作品。

何組か紹介したなかで、行燈など和の明かりづくりをしている都行燈株式会社(http://www.miyako-andon.com/index.html) の木崎さんが一部を引き受けてくれることなりました。繊細な明かり、形としてのデザイン性を深く理解してくれて、ヨーガンさんの目指すものを、照明の作り手として共感してもらい、製作が始まりました。

「主婦の恥」

2014年の初夏、ヨーガン レール社を訪れると、あのプラスチックのゴミたちが、照明器具に姿を変えていました。スケッチから飛び出してきたように、生き生きと新しい生命が宿ったように。ヨーガンさんのプラスチックのゴミの収集は続いていて、照明器具はつくり続けられていました。その数カ月後、ヨーガンさんの訃報が入ってきたのです。

今年に入り、このプロジェクトはストックホルムの美術館で紹介され、7 月から東京都現代美術館で企画展「ここはだれの場所?」の中で発表されています。美術館の空間で展示されるプラスチックゴミのランプは、点灯するととても綺麗で1つ1つが個性的なアート作品に見えます。もちろん、そこには大量のゴミに汚染されてゆく環境に、多くの人たちに目を向けてもらいたいというメッセージが込められています。

ヨーガンさんの最後の仕事となった、この「ゴミランプ プロジェクト 」。さまざまな捉え方があると思います。ものづくりに携わってきて、そしてこれからの照明のあり方を提案していく立場として思うのは、人々に必要とされる明かりを考え、デザイン性が高く機能的で生活のなかで実際に使われ続けていくものを意識してつくっていくということ。そして、できれば土に帰る素材でつくられることが望ましいのかもしれません。

ヨーガンさんの想いは今回の展覧会の冒頭のあいさつ文にも「The End of Civilization (文明のおわり)」というタイトルで紹介されています。その中に、「ただ美しいオブジェではなく、もう一度人の役に立つ実用的なものに変えましょう。これは、ものをつくることを仕事にしている私の小さな抵抗です。」 の一文があります。ものづくりに携わる人たちも、常にこのような思いと寄り添いながら日々生産の現場にいるのだと思います。少しでもこのプロジェクトから、亡きヨーガン レールさんが残してくれたことから感じ取り、多くの人たちに思いが伝わることを期待します。(文/谷田宏江、ライティングエディター)

「ここはだれの場所 ? 」
2015年7月18日〜10月12日
東京都現代美術館
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/whoseplaceisithis.html

株式会社ヨーガンレール
http://www.jurgenlehl.jp/