いささか旧聞に属するが、5月30、31日に台湾の台北市で「メイカーフェア・タイペイ2015」が開かれ、筆者はFabミニ四駆カップの日本代表として現地のレースに参加する機会を得た。
レースとはいえ、本質的には、ミニ四駆というプラットフォームを利用してデジタルファブリケーションとデザインの可能性を探る試みであり、このテーマを巡る日本と台湾の違いなども興味深かったので、今回はこの話題を採り上げることにしよう。
Fabミニ四駆とは、タミヤのミニ四駆キットをベースに、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションツールを用いてボディや周辺パーツのカスタマイズを行い、全体のスタイルと機能アップを図ったレースカーを指す。
それを使ったレースが、日本では昨年秋と今年春の2回にわたってレースが開かれ、春のレースの優勝者が、台湾では初回となるメイカーフェアでのレースの出場権を得ることになっていた。そして、日本の大会で筆者のマシンがたまたま勝ち抜く幸運を得て、現地に赴いたのである。
台北のメイカーフェアは、市内の中心部で開かれ入場無料ということもあって、家族連れを含めて大勢の来場者で賑わっていた。会場の華山1914文創園区は、日本統治時代に酒造工場だったところで、建物をリノベーションして使うなど、イベント抜きでも興味深い場所だ。
屋外の通路にも、プラダン(樹脂製ダンボール)を使った構造物や、清涼飲料水の空き缶を利用したボートなど、さまざまな展示物や参加型のアクティビティが用意され、来場者も楽しげに回遊していた。
筆者のFabミニ四駆は、BMWのコンセプトカー「ジーナ」をイメージしたもので、元になったショーカーのデザイナーは、現在、アップルに在籍している。表面が伸縮性のあるファブリックで覆われ、ライトやエンジンルームの開口部も、ちょうど服のスリットが開くような感じで現れる。実際には自動車の外皮を布張りにする構造は、ビンテージカーの時代にも見られた手法だが、これを現代のスポーツカーに応用したところが新しい。
一方で、筆者のモデルは、自分で所有するエントリークラスの3Dプリンターによる造形物の表面のクオリティを補う意味で、ストレッチ素材によってカバーすることを思いついたのがきっかけだった。
作業的には、ミニ四駆のダイハツ・コペンのキットのボディを3Dスキャンし、その上に完成車の骨格となるリブを設計して別パーツとして出力。元のボディと合体させた後にファブリックを貼っている。
また、ラジコンやスロットカーとは違って、一度走らせ始めたらコントロールすることができず、事前のセッティングのみが勝負の分かれ目となるFabミニ四駆を、レーストラック内で安定させたりカーブ時のガイドとなる前後のローラーは、逆円錐形のものを3Dプリントして装着した。筆者が「大谷ローラー」と呼ぶこの機構は、日本のレースでは落差60cmのジャンプ後も車体の姿勢を安定させ、勝因となったものだ。
ほかにも台湾大会には、日本でのレースに参加したユニークな作品たちが、特別展示された。
例えば、レーザーカッターでつくられたテオ・ヤンセン風の16足駆動車や、前後のみならず左右にも自在に移動できるためにカーブ時の抵抗が減るオムニホイールを装着した作品は、ホンダのデザイナーチームのもの。メビウスの輪のような透明ボディで電池も白にこだわったカゲロウのような車体は、日産のデザイナーによる作品。このあたりは、シャシーまで自作で、ミニ四駆からの部品流用はモーターやシャフト類程度に留まる。
そして、3Dペンで造形した青いクルマと、鉛筆を模した緑のクルマは、筆者の別の参加車両である。
対する台湾の車両は、後輪をハブレスにしてリムで支えた野心的なスリーホイーラーや、3D造形とレース性能の両立を素直に追求したものなど、全体に参加姿勢の真面目さが際立っていた。
また、日本のコースはあえて過酷なカーブやアップダウンをつくって見せ場を重視した設計だったのに対し、台湾のコースは、参加者の車両が壊れないように比較的フラットでノーマルな構成で、テスト走行も、本番で走れなくなることを心配して基本的に行わないという配慮がなされた。
筆者のマシンはテクニカルなコース向きのセッティングだったことや、台湾大会を前に改良を加えた大谷ローラーの剛性を高めすぎて反力が大きくなり、コースアウトを喫して残念な結果に終わった。しかし、実際に一発勝負でも高速で完走する車両はあり、基本性能の高さをうかがわせた。
まだ日程は未定だが、秋にはまた日本でのFabミニ四駆が開催される予定があり、筆者もまた新型車両での参加を考えている。読者の皆さんも興味が湧いたなら、ぜひ気軽に参加していただきたいと思う。