REPORT | プロダクト
2015.05.21 10:00
今年は2年に一度開催される照明器具の見本市「エウロルーチェ」も同会場で開催された。多種多様な製品が揃い、照明技術も進歩するなか、これからの照明器具は何を照らし出すのか? フロスのピエロ・ガンディーニ社長に話を聞いた。
文/長谷川香苗
▲ フィリップ・スタルクによる新作のフロアランプ
スタンドベースをクローム、コッパー塗装、ランプシェードをプラスチック、プリーツ加工の布地から選択可能。LED光源を周囲に配置したエッジライティングによって均質な発光を実現。フロアランプのほかテーブルランプ、ペンダント照明も展開する。
▲ ジャスパー・モリソンによる「Superloon」
円の周囲にLEDを張り巡らせ、光を均質に放つエッジライティングによる面発光が神秘的。地球儀を眺めているようでもあり、遠い銀河系に浮かぶ月を眺めているようでもある芸術性とテクノロジーが見事に融合する。調光可能。
Photo by Frank Huelsboemer
数十年前のタイムレスなデザインを現代に向けてアップデートしたり、これまでにないデザインを生み出したり。高い技術力で知られるフロスの照明プロダクトは、毎回、多くの注目を集めている。
今年のミラノサローネでは、フィリップ・スタルク、ジャスパー・モリソン、マイケル・アナスタシアデス、ロナン&エルワン・ブルレック兄弟らの新作を発表。デザイナーを選ぶ段階から製品化に至るすべての過程に、直接関わっているのがピエロ・ガンディーニ社長だ。
同社との仕事を望むデザイナーが多いなか、「未来を思い描きながら雲の上をさまようような想像力と、それを形にするため、地に足をつけて現実と向き合う強い精神力。この2つがあって初めてフロスの製品になる」とガンディーニ氏は説明する。
その実現のためには、デザイナーを時に過酷な状況に追い詰めることで知られる。
「フロスのものづくりは、デザイナーと企業の力の足し算では生まれません。両者が出会って計り知れないものを生み出したい。プロ中のプロのデザイナーと真剣な仕事をしているのですから、簡単な要求では意味がありません。デザイナーに力を十二分に発揮してもらうためには、時に過酷な条件で追い込むことも必要でしょう。腹の探り合いもします。それはどんなデザイナーでも同じです。奇妙なたとえになりますが、デザイナーと自社の関係は、日本の寿司職人とその寿司を食べる客との関係に近い。ひとりの寿司職人は、長年にわたって贔屓にしてくれる客によって腕を上げ、客も料理人が成長することで自らの味覚が鍛えられる。互いの存在があって初めて、ともに成長していると感じる。当然そこには長い年月が必要です」とガンディーニ氏。
▲ アントニオ・チッテリオによる「Kelvin Edge」
デスクランプの名作Kelvinランプのミニチュア版。ヘッド部分に取り付けられた
スイッチによって、色温度の変換および調光が可能。Photo by Frank Huelsboemer
▲ フランク・シナイーブとステファン・グンストによる空間照明「Moonline」
ふたりはベルギーのデザイナー。磁石を組み込んだLEDパネルによって壁面、
天井面に取り付け可能。空間を構成する照明装置。
室内照明器具の市場が供給過剰になりつつあるなか、今年は屋外用照明装置の拡充を図った。こうした動きについて説明する。
「フロスにとって照明器具をつくることは昔も今も変わりません。照明器具のフォルムや実体のない光に形を与えることに対して、常に新しい“言語”をつくろうと思っています。そうした新しい言語は、デザイナーという才能との出会い、社会情勢、利用可能な技術といったさまざまな要因が組み合わさって生まれます。新しいプロダクトを世に送り出すことは、そのプロダクトを使うことになる多くの人に、何かしらの体験を共有してもらいたい、という行動の表れなのです。人は他者と何かを共有することで成長する生き物です。プロダクトをつくるとき、いつもこのことを心に止めています」。
今年1月、50年にわたってファミリーで経営してきた株の大半を投資会社に売却したが、ものづくりの方針は変わらず、今後もすべてピエロ・ガンディーニ氏が取り仕切るとのこと。にもかかわらず売却に踏み切った理由について、「常に新しい道を切り開いていきたいのです。何万回も歩いてきた道を行ったり来たりしても意味がないでしょう」。フロスが照らす先にはどんな道があるのか、これからも期待したい。