第6回
「ミラノサローネ/ユーロルーチェ2015 & ミラノデザインウィーク」

今年のミラノサローネは「ユーロルーチェ」 が同時開催。 ミラノ市内ではミラノデザインウィー クもほぼ同時期に行われ、世界中から多くのデザイン関係者が訪れました。今回は、特に印象的だった照明とインスタレーションを紹介します。

スペインの照明メーカー、VIBIAからは日本のプロダクトデザイナー、岩崎一郎さんがデザインした照明が発表されていました。 この「Pin」シリーズには、テーブルランプ、ブラケットランプ、フロアランプのバリエーションがあり、いずれも灯具が共通。 LED ユニットの極小化によって、灯具は限りなく小さくなり、極細の支柱パイプを採用。一見可愛らしい印象ですが、灯具の前面に施された乳白色のカバーにより、光が広く拡散し、眩しさを抑える効果を併せ持ちます。そしてスムーズに角度が変えられるスティック状のつまみ。 アンビエントライトやタスクライトの新しい解釈とも思える、この「Pin シリーズ」ですが、 新旧のさまざまなインテリア空間との調和を予感させるシンプルなデザインです。

岩崎さんは、Pinのデザインで大切にしたのは「変わらない心地よさ」 だと言います。 全く新しい何かをつくり出そうとするのではなく、日常の中で育まれてきた感覚を大切にしつつ、現代の感性に響く多くの人とわかり合える共通言語のような照明を目指したとのこと。一目見て”照明らしさ”や昔ながらの照明のような”親しみやすさ”を感じてもらえたらということでした。

flosから発表された、ジャスパー・モリソン氏による「Superloon」。 数年前に、同社CEO ピエロ・ガンディーニ氏より紹介されたリング状のLEDユニット「エッジライティング」を、最も効果的に表現できるようにデザインしたのがこの照明。

360 度回転する自在軸の部分に、光の色と明るさを調整するタッチセンサーがあり、瞬時にフラットな面が点灯しさまざまに表情を変えます。 LED特有の輝度を和らげ、月明かりのように空間を包むことができます。 この形は、タスクライトにも間接照明のようにも機能するデザインで、 空間のイメージを多様に変化させられる照明器具になりそうです。メーカーの持っている技術の高さを最大限に引き出す形を提案し、メーカーを予測していなかった可能性へと導いく。それは、先の岩崎一郎さんのPinにも通じることだと思います。

Artemide からは IN-EI ISSEY MIYAKE の新作「Wuni」が発表されていました。雲丹をイメージした今回の新作。480mm のランプシェードボリュームで、LED6W(白熱 20W 相当)は天井の高いホテルなどのラウンジにも合いそうです。

イタリアの照明メーカー Viabizzuno は、ミラノサローネの時期はいつもインディペンデントで市内の自社ショールームで展示を行っています。日本では、馴染みの薄いメーカーですが、有名アパレルブランドや商業施設からの評価は高く、 照明デザイナーにはこれまで、建築家の隈研吾氏やピーター・ツムトーア氏なども名を連ねています。

毎回驚きのインスタレーションなのですが、今年はかなり印象深かったです。 まず、敷地内に高さ10mちかい巨大なドラム缶が数棟あり、この中に入る よう案内されます。全ての巨大ドラム缶は中で繋がっていて……。

それぞれの棟に自社の照明プロダクトが上部から吊るされています。 また、棟内もそのプロダクトの個性に合った仕様にデザインされ、改めて、照明は立体の大きさによって存在の価値が伝わってくるものだと思わされました。

Viabizzuno の広報担当に「なぜ、他の照明メーカーやデザインブランドが出展するフィエラのような見本市会場には出展せず、デザインウィークの協賛もしないのか」という質問をしました。 すると、「自分たちの表現したいことが完璧に伝えられるのは、ここしかないから。ここがホームだから」という答えが返ってきました。 プロフェッショナルの市場をターゲットにしている姿勢からは、独自に開発した光源への自信と、照明の構造へのこだわりが強く伝わってきます。ゲストに対して常に新しい驚きを用意して迎えるというスタイルがあり、代表のマリオ・ナンニ氏率いるスタッフ全員が、この期間思い切り楽しんでいる様子でした。(文/谷田宏江、ライティングエディター)