REPORT | プロダクト
2015.05.07 19:21
今年のミラノサローネ国際家具見本市では、ロベルト・ズナイデロ新体制のもと、社会の変化に則した新たな企画も立ち上がった。隔年開催のオフィス家具や設備関連の見本市「サローネウフィーチョ」は名称に「Workplace3.0」というキーワードをプラス。働き方が変わるなか、見本市全体としてこれからの仕事場を提案する姿勢を打ち出した。
文・写真/長谷川香苗
「Workplacee3.0/サローネウフィーチョ」のインスタレーション「The Walk」内で行われた記者会見。
その「Workplace3.0」の目玉として登場したのが、ミケーレ・デ・ルッキ氏によるクリエイションを誘発するための理想の空間「The Walk」。「オフィスでの活動とは、人々の専門的な才能や技術を組織立てていくことが基本にあり、今では人間同士が関わり合う最も大きな活動と言えるでしょう」とデ・ルッキ氏。そのうえで、「人々の暮らし方が変わってきた今、オフィス空間もライフスタイルをビジュアル化したものであるべき」とコメントした。
現代のライフスタイルとはOn the Go。フットワーク軽く、動き続けること。デ・ルッキ氏は、人は歩きながら考えると捉え、歩き回る空間「The Walk」を提案した。考えに行き詰まると人は部屋のなかを行ったり来たりして歩き回る。その歩くことを基本に、日々の暮らしのなかで人と人が関わり合ってアイデアが生まれる4つのシーンを通して未来の仕事場の光景を描き出した。
4つのシーンとは「クラブ」「フリー・マン」「アゴラ」「ラボラトリー」。「クラブ」はホテルのロビーや空港のラウンジ、カフェのような場で仕事をするイメージ。とどまる必要がなく、自由でオープンな場でありながら、ある程度のプライバシーを確保し、仕事の効率を上げるためには、家具や什器の工夫が必要だという。こうしたオープンさは、思いもよらない人と人との出会いを誘発し、アイデアの創出につながるが、時には人と距離を置いて自分のなかに閉じこもる環境も必要だと説く。その提案がいくつもの小さな家が置かれたような「フリー・マン」だ。
「クラブ」の空間。Molteniの関連会社UniForから発表されたシステムウォール、ソファ「Hatch」、Gerbrueder Thonetから発表されたカフェチェア「Radetki」は、いずれもミケーレ・デ・ルッキのデザイン。
「フリー・マン」の空間。以下、いずれもイタリアのオフィス家具メーカーが製作した家具。Faram社のワーキングスペースのデザインもミケーレ・デ・ルッキ。
「フリー・マン」内、Arte & Partners社の茶室のようなワーキングスペース。デザインはミケーレ・デ・ルッキ。
「フリー・マン」内、ICF社のチェア「Cloud Meeting」。デザインはソットサス・アソシエイツ。
一方で「アゴラ」は、目的を等しくする人たちが集まってミーティングを行うなどして、コミュニティ意識を高めていくことができる。「ラボラトリー」は、その名のとおり実験室。生まれたアイデアをすぐに形にするための3Dプリンター、ミリングマシンといったデジタル機器を装備。スツールや書類入れなど、オフィスの備品をここでつくって使うことを想定する。「このように働き方を捉え直してみることで、新たなタイプのオフィス家具が提案できる」というのがデ・ルッキ氏の考えだ。
4つの仕事場のシーンを高架橋のような見晴台が取り囲み、歩き回ってインスタレーションを体感する。そのさまは首都高速の下に広がる街のようでもある。仕事場が街じゅうに広がり、街の風景の一部になる。そんな未来がイメージされる展示だった。