vol.60
「エアラス発表展示会」(18日17:00まで開催中)

グラフィックデザイナーや印刷・出版関係の方ならば、よくご存知の特種東海製紙が、4月16日、同社にとって19年ぶりとなる高級印刷用紙「エアラス」の発表会を行った。

2014年の暮れに島田工場が火災に遭い、壊滅的な打撃を受けた特種東海製紙は、危機にあっても、ひるまず挑戦することを意味する「逆風張帆」の精神で、今回の発表に漕ぎ着けたとのこと。紙を3次元空間で捉え、ナノテクノロジーを駆使して日本の製紙技術の最先端を追求した「エアラス」は、同社が復興に向かうシンボル的な製品だ。

具体的には、繊維が多くの空気を絡めるように取り込む原紙に対して、フワッと載せるような表面の塗工を組み合わせることで、嵩高(かさだか)と緻密な美しさを両立させ、さらに肌合い、白の再現性、発色・光沢性を高い次元でバランスさせるという高度な技術を3年にわたる研究開発の末に実現した新種の紙。それがエアラスであり、特種東海製紙では、これを「人類史上2度目の紙の発明」とまで位置付けている。

そんなエアラス自体の持つ革新性もさることながら、グラフィックデザイナーの廣村正彰氏がディレクションし、ドイツ人写真家のカルステン・トーマエレン氏による「100歳の記憶展」を併設した発表展示会「エアラス・性能と品質」の構成が素晴らしかったので、今回はやや変則的ながら、この話題を採り上げることにした。

会場入り口を入ると、まず4,000枚を超えるエアラス紙で構成されたインスタレーションウォールに出迎えられる。「空気(air)」が「私たち(us)」にもたらす紙の新たな可能性から名付けられた”airtus”の文字が浮かび上がる中央部を除き、左右部分の紙には、展示の趣旨の印刷と1あるいは2の数字が型押しされており、これを手にとって先に進む趣向だ。

ウォールを回り込んで、手前半分のエリアが「100歳の記憶展」のスペースとなっており、作品はエアラスに印刷されている。ドイツ人を被写体とする作品8点に加え、日本での展覧会に合わせて北海道で撮り下ろされた100歳以上のお年寄りの写真8点も並び、高齢になっても人生を前向きに生きる人々の表情が印象的だ。展覧会のために来日し、この日初めて印刷された作品を見たトーマエレン氏も、そのディテールの再現性や発色の良さには驚いたようで、満足げな様子を見せていた。

そして、エアラスの性能と品質を強く印象付ける奥半分のエリアに移ると、これまで感性や感覚的な言葉のみで語られることが多かった紙の特性を、具体的な数値やビジュアルで細やかに伝えようとする切り口が、とても新鮮に感じられた。

例えば、同じページ数であれば同社の他の高級印刷用紙よりも10%軽くコストを抑えられることを、実物の秤を並べて数字で示したり、200度のオーブンで燃焼させるという驚きの方法で塗工面の均一性(=印刷均一性)を明らかにしたサンプルなど、視覚や触覚に直接訴える手法でエアラスの魅力を伝えようとする発想を楽しめる展示なのである。

さらに、いちばん奥の壁には、廣村氏ほか5名のクリエイターが、エアラスの限界に挑んだ作品展示があり、そこでは0.1ミリの線を積層したり、ギリギリまで黒の物質感を再現したり、金と銀の中間の曖昧な色で金彩の水墨画的なイメージを追求するなど、凸版印刷の高度な印刷技術とエアラスの組み合わせによる「グラフィックトライアル」の成果を目の当たりにできた。

ちなみに、「エアラス・性能と品質」展示会と「100 歳の記憶展」の会期は3日間で、虎ノ門ヒルズにて4月18日(土)17時まで行われている。新たな高級印刷用紙の誕生と、展示における新たな視点に興味のある方は、ぜひ立ち寄って体験されることをお薦めしたい(展示の詳細→ https://www.tt-paper.co.jp/info/2015/pdf/20150318_air.pdf)。

そして、この内容を数日のみで終わらせるのは実にもったいない話であり、特種東海製紙には他都市での巡回展などをぜひとも実現していただければと思う次第だ。