サンテティエンヌ国際デザインビエンナーレ2015

フランス中部の町、サンテティエンヌで2年に1度開催される国際デザインビエンナーレ。前回2013年は「他者への共感」をテーマにするなど、一歩先を見据えたテーマ設定で質の高い展覧会を開催してきた。今年のテーマは「美の体験」。さまざまな国籍のデザイナー26人をキュレーターとして迎え、それぞれの視点から美という抽象概念を捉える試みだ。

ポルトガルの磁器やクリスタルのデザインを学ぶ学生のためのラボ、ID POOL出身のゴンサロ・カンポスによる「レドマ」。ポルトガル語でガラスのキューポラというタイトルどおり、ガラスドームのランプシェード。

かつてサンテティエンヌ高等美術デザイン学校が立ち上げたビエンナーレは今でもデザインスクールとのつながりが強く、若い才能の意欲的なアイデアを紹介する場として注目されている。今回も、キュレーターのひとりでベネトンの研究機関ファブリカで指導に当たるフランス人デザイナー、サム・バロンが「美の本質」という企画の下、ヨーロッパのデザイン学校出身の若手デザイナー30人の作品を選び、展示を行った。

スイス・ECAL出身のヤマモト・ムギによるインクジェットプリンター「スタック」。給紙トレイを取り払い、積み上げられた紙の上に置くというプリンター。紙の山から直接給紙され、印刷された用紙はプリンターの上に排出される。2013年度のダイソンデザインアワードノミネート作品。

スイス・ECAL出身のヨアン・ユオンによる「サンブラインド」。日よけブラインドのような形をした壁掛け式照明器具のコンセプト。アルミサッシの一部にはめ込まれたLEDは見る角度によって明るさが変わり、使い方も日よけブラインドのよう。

イタリア・ミラノ工科大学出身のヒラオカ・ユウよる「ヴェティータ」。約12cmのアクリルでできたペイパーナイフ。一目ではペンと認識できるがペンとしては機能しない。ペイパーナイフという用途を与え、オブジェクトとしても美しいデザインに仕上げた。これはすでに製品化されている。

この展示では、完成形よりもいかにしてデザインが生まれるのかというプロセスに重きを置き、アイデアに形を与えていく過程の一端を紹介している。見る者によっては、実用的なのか、構造上成り立つのか、精査が足りないと思える部分もあるかもしれない。そうした実用性、実現性などの壁にぶつかりながらも、デザイナーが改良を加えていくとしたら、その先に目指しているものが「美」なのだろうか? デザイナーは自分自身、そして見る人それぞれに問いかける。

デザイナーのノエ・デュショフール・ローランス

会場ではデザイナーのノエ・デュショフール・ローランスと遭遇。エールフランス航空のビジネスクラスラウンジのデザイン、メゾン・エ・オブジェの会場デザインを手掛けるなど、売れっ子デザイナーのローランスは今回は出品していない。それでも「ミラノ、パリの見本市はアウトプットを見せる舞台。それに対して、サンテティエンヌはインプットの場。さまざまな考えに触れることができてとても刺激を受ける」と話す。若きデザイナーたちの作品に見入っている彼の姿が印象的だった。(文・写真/長谷川香苗)