第5回
「照明のつくる空気 伊勢丹新宿店 本館5階リビングフロア リモデルオープン 」

2013 年からスタートした伊勢丹新宿店のリモデルが去る3月4日、5階リビングフロア、6階ベビー子供フロアのリモデルオープンで、その第2ステップを終了しました。ここでは、5階のリビングフロアについて、照明の視点から感じたことを伝えたいと思います。

「くつろぐ」「つどう」「やすらぐ」という3つのテーマで編集されたリビングフロア。かつてはブランドやカテゴリー別だった売り場が、ライフスタイルのシーンごとに展開されています。「パーク」と呼ばれるステージもあり、どこか街の中にいるような感覚です。顧客を誘導する街路灯のような役割のデザイン照明が、売り場全体のアクセントとして点在しています。

リビングフロアの核である家具売り場。 国内外のブランドからのセレクトで、とてもわかりやすいレイアウトです。 その中に、こちらも同じく洗練されたデザイン照明が一体となって配置されています。照明器具の機能とデザインを損なわないようにディスプレイされています。基本照明としてテンプレート的にフロア全体を平均的に灯すという考え方ではなく、それぞれの売り場と商品が生きる計画になっていました。

家具売り場はリビング・ダイニングというシーンの中で、商品をよりリアルに捉えるようにするため、天井からの照明がとてもフレキシブルに計画されています。他の売り場に比べて明るさも控えめに設定されているようで、 ハイクオリティな家具が映えます。このような見せ方は照明器具を購入する際にも本来の明るさがわかるので、とても有効だと思いました。

3つのテーマの中の「やすらぐ」を提案している寝具・バスグッズの売り場でちょっとした驚きがありました。今やベッドや枕の使い心地を試すのは当たり前ですが、こちらも自身の生活シーンの中にいるように試せるシチュエーションが提供されていました。

寝室をリアルに再現するかのように個室ブースが設けられており、ブースそれぞれの壁に調光システム(ルートロン社製/グラフィック アイ)が設置されていて、部屋の明るさを数段階に調整できます。好みの明るさの中、ベッドやベッドリネン、枕の使い心地を体感できるのです。

まるで、ベッドルームの試着室。

源 吉兆庵がプロデュースするカフェ「RAIKA」もあります。

ここのインテリアには堀木エリ子さんがデザインした和紙が壁面間接照明やシ ーリングライトなどに活かされていて、とても落ち着いた雰囲気の明かるさです。

百貨店の喫茶コーナーにいることを忘れてしまうような感覚になりました。

オーダーでつくられたと思われる印象的なシーリングライトがありました。ステーショナリー売り場のカウンター上の照明です。 ハサミやスケール、ペンなど、文具を型どったゴールドのオーナメントがランプシェードの役割をしてキラキラと目に入ってきます。

今回感じたのは、それぞれの売り場の特色と個性をより引き立たせるディスプレイとスタイリングが整然とではなく、遊び心を持って演出されているということ。 それは、毎日の暮らしをファッションとして提案するという今回のリモデルのコンセプトからきています。 1つのフロアでありながら、さまざまな工夫とアイデアが活かされていて、それぞれの売り場に合った個性ある照明の演出がされており、街中の専門店をいくつも行き来しているような気分になります。百貨店らしくないともいえる斬新で驚きと楽しさのある今回のリモデル。そこには緻密にプランニングされた照明の効果がありました。(文/谷田宏江、ライティングエディター)

空間デザイン:株式会社丹下都市建築設計 丹下憲孝/GLAMOROUS co.,ltd. 森田恭通
照明計画 : 株式会社 モジュレックス