vol.59 インドのビスレリ社
「ベディカ」

先日、インドで産業・教育系のカンファレンス”OneGlobe Conference”を取材する機会があった。インドは、全人口13億人のうち過半数が25歳以下、65%が35歳以下という、日本とは真逆の「若い」国であり、ここ数年の経済成長率にも目覚ましいものがある。

もちろん、中国などと比べれば、市場の絶対規模の点では遠く及ばず、社会格差や環境インフラなど、改善すべき点も依然として多々存在している。しかし、だからこそ、欧米の企業や教育機関も、その潜在的な将来性に注目し、さまざまな足がかりを築きつつあったりするのだ。

スズキや川崎重工、公文を筆頭にすでに現地に根をおろしたジャパニーズビジネスもあるが、他の日本企業や大学にとっても、ここ1、2年がベストなタイミングではないかと、取材した関係者たちは口を揃えて話していた。

筆者もAXIS誌で、ドローンを搭載したルノーのインド向けコンセプトモデルの「クウィッド」を紹介したことがあったが、経済力をつけてきた若い世代をターゲットとした商品開発は、今後、ますます盛んになりそうだ。

前置きが長くなったが、衛生的な水の供給も解決すべき問題の1つで、ミネラルウォーターもあちこちで販売されている。今回、採り上げるのは、採水地がヒマラヤ山脈である点をセールスポイントに据えた、ビスレリ社のベディカという製品だ。

これに購入したのは帰途に着く空港内で、まず、開けやすそうな黄色いキャップが目に留まった。採水地であるヒマラヤの峰の姿が水の中に浮かび上がり、爽やかな印象を受ける。実際にも美味しい水だったが、飲み干した後で、ヒマラヤが痩せ細ったことに気付いた。

よく見ると、ラベルは日本のようなヒートシュリンクではなく、六角形のボトルの手前と奥の面だけに縦長のものが貼り付けられており、奥のラベルの内側に印刷されたヒマラヤは、水が入っているときだけレンズ効果で横方向に拡大される。

ラベル内側の印刷と水とボトルのレンズ効果を利用した例は他にもある(例えば、清酒ワンカップ大関)が、たいていは文字を拡大して読ませるもので、ボトル断面が円筒形なので拡大像の歪みが大きい。

これに対して、ベディカのボトルは六角断面で歪みも少なく、幅いっぱいにきれいに拡がる。また、実際のラベル面積を減らせるので省資源化の効果もある。

ビスレリ社は、インドにおけるミネラルウォーターのパイオニアとして、当初はごく普通のペットボトルでパッケージングしていた時代もあったようだ。しかし、近年は、一大財閥のタタグループなども市場参入し、競争が激しくなりつつあるものと推測される。そこで、デザインの力によって差別化を図るフェイズへと移行したのだろう。そのことが明確にわかる、ベディカのボトルなのであった。