REPORT | ソーシャル
2015.02.20 17:54
2月5日(木)、アクシスギャラリーで開かれたトークショー「Design Incubators from Asia to the world 新たな領域を切り拓くために」。その後編です。
文/高橋美礼
写真/広川智基
▲ NOSIGNERの太刀川英輔氏
デザインは社会貢献
3人目のスピーカーは「ソーシャルデザインの革新」をテーマに掲げる太刀川英輔氏。NOSIGNERとして、社会に貢献すること、社会的な課題に結びつくことを中心に活動してきた経験から、この日は「クリエイティブプラットホームについて、特に、コレクティブでありイノベーティブであるために欠かせないポイントを4つ、お話します」と次の4項目を紹介した。
1.「OPEN」
「開かれている状態を意味します。誰でも参加でき、誰もが使える。データのオープンソースと同じ考え方で、開かれることでコレクティブになるものがあります」。東日本大震災の直後、太刀川氏が中心となって立ち上げた「OLIVE」の活動がその好例だ。
2.「DIVERSITY」
「多様性。京都に本部を構える『MIRA TUKU』は社会起業家が大勢集まる場所。専門性を持ちながら互いに協業することで見えてくるものがたくさんあると実感させてくれます」。
3.「SMALL TEAM」
「プロジェクト内の人数は少ないほうが話しやすい。多様性のある少人数制、というのがイノベーティブを起こす基本だと考えています」。
4.「BRIDGE」
「面白いことは業界内ではなく、その境界で起きます。だからデザインは外へ出ていかなくてはなりません。そしてブリッジをどう架けるか。プロジェクトを魅力的にするにはブリッジの力が大切」。
これらのポイントは太刀川氏がクリエイティブプラットホームで実践しているもの。その一例として、クールジャパン政策での提言がある。
「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」。
日本のデザインが得意とする課題解決の手腕を世界へ輸出していけるのではないか、と提案するコンセプトだ。太刀川氏は今後さらにクリエイティブが日本を動かしていくと確信する一方で、「シンガポールではクリエイティブの力がうまく使われていると感心しています」と見習うべき点があると話した。
日本とシンガポールから生まれる可能性
トークショーの後半は、デザインディレクターの岡田栄造氏をモデレーターに迎えてディスカッションが行われた。
はじめに岡田氏が「21世紀はアジア圏がさらに求心力を高める時代になると考えられます。そのなかで、日本とシンガポールはどういう立ち位置にいるか、または、どうあるべきか意見をお聞きしたいと思います」と口火を切った。
パトリック・チア氏は「デザインには多くの方法があります。つまりツールの1つ。シンガポールでは政府レベルでもデザインを多様な機関でどう活用するかが検討されています。ノンデザイナーもデザインメソッドを理解しはじめている段階にあるでしょう」と現状を語った。それを受けて、ヨウ・ピアチュー氏は「さまざまな試みを実施していますが、それぞれのプロセスや成果をデータベース化して、将来的には異領域にも役立てるように工夫しているところです」。デザインシンキングの活用は着実に普及しつつある。
「シンガポールのインキュベーションデザインは、2002年から本格的に始動し、政策の一環としても新たな可能性を切り拓いていますが、日本とのシンパシーはどうでしょうか」との岡田氏の問いかけに、太刀川氏が「ひじょうに強く感じる」と即答。「日本では長い間、デザインが特定の領域に属していないと居心地が悪いものでした。プロダクトやグラフィックなど、分野を明確に分けたがる傾向は実はまだ根強い。でもシンガポールは違う。日本が向かうべき方向性へすでに進んでいる点はとても意識しますし、不要な“壁”はどんどん溶かしていかなければならないはずです」と語った。
ほかにも、「シンガポールは、IT開発とデザインがコラボしやすい環境が整っている」(ヨウ氏)、「まず自分たちデザイナーがインキュベーションして、各分野のトップを融合させてから、ハブとなって機能していくことも考えられる」(太刀川氏)といった意見が交わされた。限られた時間だったが、日本とシンガポールがより密接になれば何か新しい動きが生まれるはずだ、と互いに期待を高めながらディスカッションは締めくくられた。
満席の会場に若手デザイナーが多かったのは、シンガポールへの注目度が高いことの証でもある。次世代のデザインはどうあるべきかを探りながら、幅広い活用の道が開けるに違いないと感じさせてくれたトークショーだった。
●本シリーズは「シンガポールデザインレポート」からご覧いただけます。