vol.7 デザインシンガポール・カウンシルが力を入れるのは、ものの形ではないデザイン

2003年、シンガポール政府の経済再生委員会は、今後の経済発展に不可欠な産業として「教育」「医療」「クリエイティブ」の3つを掲げた。それを受けて同年に発足したデザインシンガポール・カウンシル(DesignSingapore Council、以下Dsc)は、国際社会で競争力を保ち続けるためには、自らを常にリデザインし続ける力が必要だと説いている。では、Dscが力を入れるデザインとは何だろう。指針や活動について尋ねた。

インタビュー・文/大島さや

▲ デザインシンガポール・カウンシルがあるナショナル・デザイン・センターのアトリウム


経済成長を促すために

デザインシンガポール・カウンシル代表を務めるジェフリー・ホー氏(Jeffrey Ho)はカウンシルの役割を、「人々のライフスタイルをより良くするだけでなく、デザインによってシンガポールの経済成長を後押しすること」と説明する。ウェブには、「時代は産業が誘導する経済から、経験や知能が誘導する経済へと変わりつつある」とも記される。これは商品の開発そのものよりも、それを利用する際の体験に価値を見出すというユーザーエクスペリエンスデザインを意味している。

例えば、Dscの「デザイン・イノベーション・アシスタンス(DIA)」は、飲食店やスーパーといった小売店、ホテルや病院を含んだサービス業を対象に、ユーザーの体験を向上させたり、業務を効率化する際の金銭的サポートをするプログラムだ。DIAを利用する事業者は、デザインコンサルティング費用やリサーチ料など、最大70%を補助金でカバーすることができるという。ホー氏は「イノベーションによって事業の効率化をサポートし、国内企業のデザインシンキングを促進する試みだ」と説明した。

また「デザイナーたちの仕事を増やすことによって、自国のクリエイティブ産業全体を活性化することができる」とも語る。実際にDscが行ったアンケート調査では、2009年から2011年の間に企業が事業戦略にデザインを取り入れた割合が、全回答の20%から27%に増加したという。


▲ メゾン・エ・オブジェ2014より


デザインイベントを誘致しつつ国外へ

シンガポール国際空港同様に、デザインにおいても世界のハブを目指すDscは、メゾン・エ・オブジェをはじめとした国際的なトレードショーやアジア・デザイン・ネットワーク・カンファレンス、IFI & ICSID ワールド・デザイン・コングレスといったイベントを積極的に誘致する。

一方で、自国企業やデザイナーが国外のトレードショーに参加する際の支援も手厚い。「ザ・マーケット・アクセス・アシスタンス (MAA)」は、ミラノサローネや東京デザイナーズウィーク、パリのファッションウィークといった場に出展するための補助金制度。出展料に加え、プロトタイプの製作費、PR・マーケティング費など最大で30,000シンガポールドル(約260万円)までが補助される。これまでMAAを通じて39社が海外展示を成功させ、シンガポールデザインの認知度を高めるのに大きく貢献している。


▲ 2014年のデザインウィーク中にナショナル・デザイン・センターでブランドを発表した「インダストリー・プラス」 ©The Primary Studio


ものの形に止まらないデザイン

Dscの拠点はナショナル・デザイン・センターにあり、彼らが主導して通年さまざまなイベントを開催する。2014年3月には「シンガポール・デザインウィーク」のメイン会場の1つとなり、例えば、Dscのサポートを受けたインダストリー・プラス(Industry+)がインテリアブランドの立ち上げと第一弾製品を発表。スタジオ・ジュジュ(Studio Juju)やアート集団パンク・スタジオ(PHUNK STUDIO)のジャクソン・タンによる家具なども初披露した。また、街なかのデザインショップやマリーナ・ベイ・サンズといった見本市会場を巡るツアー「デザイントレイル」を実施し、市内各所の見どころへ人々を誘導。メゾン・エ・オブジェ・アジアの初代デザイナー・オブ・ザ・イヤーに輝いたフィリピンのケネス・コボンプエをはじめ、ASEAN諸国をリードしようという意思が感じられる展示や講演が目立った。

一見、斬新で奇抜な建築物や植物園に目を奪われがちなシンガポールだが、Dscの指針や活動からは、経済効果を目標に掲げた、ものの形に止まらないデザイン振興への態度が見て取れる。今年3月10日〜22日まで期間を前年より延長して開かれるシンガポール・デザインウィークでは、そうしたDscの意図がより明確に示されるのではないだろうか。

▲ 2014年デザインウィークのセミナーより

▲ 2014年デザインウィークでの「デザイントレイル」


●本シリーズは「シンガポールデザインレポート」からご覧いただけます。