vol.6
「クリエイターインタビュー:エドウィン・ロー」

自国に新たなアイコンを
Edwin Low エドウィン・ロー

インタビュー・文/大島さや


「事業の継続に最も求められるのは、巧みなマーケティングではなく、本物の人間関係。それを教えてくれたのが日本の職人たちです」と語るのはエドウィン・ロー。シンガポールの新たなアイデンティティを生み出し評価を得ているデザイナー兼プロデューサーだ。

彼が夫婦で、美大生で賑わうブラス・バサー地区から少し離れたところに隠れ家のようなショップ「スーパーママ(Supermama)」をオープンしたのは2011年のこと。その理由を「訪れた人が店員とたわいのない会話ができる、アーバン・オアシスのような空間をつくりたかったから」と説明する。この言葉の裏には、リーズナブルか否かで購買が決定される消費者心理を変えていきたいという狙いがある。ショップには、自身で開発した商品のほか、国内外のテーブルウェアやステーショナリー、家具などが並ぶ。

▲ ブラス・バサー地区から少し離れたシアストリートにある「スーパーママ」


ナンヤン美術アカデミー(Nanyang Academy of Fine Arts, NAFA)で工業デザインを教えていたエドウィンは、現在のシンガポールを象徴するシンボリックなデザインの必要性を感じていたという。歴史や文化、暮らしの象徴をアートではなく、デザインとして製品に落とし込めれば、人口約500万の自国に止まらず、外国人観光客や海外にも販路を開くことができ、継続的な事業になり得ると考えた。その際、国内に残る伝統工芸やその技術では、ものの品質や価格といった面で競争力が乏しいと判断したという。

結果、誕生した「シンガポールアイコン」は、若手シンガポール人デザイナーと日本の有田焼職人との協働による食器コレクションだ。シンガポールでよく目にする工事現場のクレーンを折り紙の鶴に見立て、また古き良きHDB住宅(HDB=Housing and Development Boardによる高層の公共住宅)をシンプルなグラフィックで表現し、有田焼のブルーと調和させた。このコレクションは、2013年に「プレジデント・デザイン・アワード」のデザイン・オブ・ザ・イヤーを獲得している。

▲ 「シンガポールアイコン」では、有田焼のキハラと協働


シンガポールは華人、インド系、マレー系、ユーラシア人など異なる民族が共存するため、一般にコミュニケーション力やコラボレーション力に優れていると言われていれる。その特性を生かし、品質の高いものづくりに定評のある日本の職人と協働することで国際競争力のある製品開発を目指す。有田焼に続いて、佐賀県諸富町の木工職人たちとヒノキを用いた新たな家具ブランドを計画中だ。


▲ 「ワン・シンガポール・2015エディション」
       Designed by Pearlyn Sim and Lim Ting


●本シリーズは「シンガポールデザインレポート」からご覧いただけます。