REPORT | 講演会・ワークショップ
2014.12.17 20:32
イタリア植物タンニンなめし革協会主催のイタリア植物タンニンなめし革の認知・普及を目的としたセミナーおよびなめし革製品の展示が12月11日にイタリア文化会館で開催された。1994年に設立された「イタリア植物タンニンなめし革協会」は、現在なめしを専門とする23のタンナー(工房、職人)からなる団体で、2010年からセミナーを毎年東京で開催している。
今年で5回目となるが、協会としては最新の機器の導入や新たな取り組みについて紹介するため毎年開催しているという。加えて協会設立から20年を迎えた今年、初のオリジナル商品「Allinone」バッグが誕生すると発表された。なめし加工のみを行い、素材の提供者であるタンナーが独自の商品を手がけたのだ。
▲イタリア植物タンニンなめし革協会会長 シモーネ・レミ氏
さらに最近の活動としては、世界10カ国のデザイン系大学と提携し、10人の学生たちとの教育プロジェクトについて、協会教育プロジェクト責任者ダイアン・ベッカー女史から説明があった。学生たちはトスカーナに滞在しながら、なめし革職人たちの手仕事および専門の化学者による環境基準検査など、なめし加工工程のすべてを見学し、植物タンニンなめし革の特性を理解したうえで、革を使ったアイテムをデザインした。普段は素材にデザインという手を加えている学生たちは、30に及ぶなめし加工を経て、ようやく素材が生まれることから多くのことを学んだだろう。セミナー会場では学生たちによるデザインも展示され、クロムなめしと異なり、堅牢な植物タンニンなめしならではのデザインが多く生まれていた。
▲イタリア植物タンニンなめし革協会教育プロジェクト責任者 ダイアン・ベッカー女史
▲英国、ロンドンカレッジオブファッション、ファッションバッグ・アクセサリー学科在籍のルイーズ・ドゥ・グルートさんによる植物が成長する様子を革で表現する研究プロジェクト。蔦をモチーフにしたハンドアクセサリーに、葉脈をイメージさせるケープなど、形状記憶できる硬さをもつ植物タンニンなめし革ならではの造形表現。
▲オランダ、アルテズ芸術アカデミー プロダクトデザイン学科在籍のテッサ・グローネウードさんによる靴。足の甲を覆う部分は1枚の革のみからできており、革を折り曲げたときに自然と生まれる形を生かした靴。
▲米国のファッション工科大学 アクセサリーデザイン学科在籍のフェルナンド・スコット・ウェブさんによる鞄、ピクニックバスケット。入れ物としての形をとどめることができるのも堅牢な植物タンニンなめし革ならでは。トスカーナの風光明媚な風景の中、ワインボトルを開ける。そんな光景が目に浮かぶデザイン。
小規模な組織による活動ながら、高品質なトスカーナ産の植物タンニンなめし革の存在は確実に世界的認知度を高めてきた。その理由について、協会理事のパオロ・テスティさんは「協会会員たちは代々10キロ圏の中で暮らし仕事をしています。私も協会会長のシモーネも含め、多くが幼なじみで小さい頃から学校に一緒に行き、学校が終わると走り回り、お互いの工房を覗きに行くような間柄でした。そうした世代が育ってきて、今ものづくりに携わっています。お互いが小さい時から家族のような存在。それがこの協会の強みなんだと感じています」と話す。
▲イタリア植物タンニンなめし革協会理事 パオロ・テスティ氏
よいものをつくりたいという意識をみなで共有している。まるで中世の職人たちがギルドという同業者組合のなかで切瑳琢磨したように、同じ姿勢でものづくりに取り組んでいる。皮という素材に最適な加工を施すことで、よりよい素材へと昇華させたいという思いを等しくすること。そして、お互い職人だからこそ、互いの技に敬意を払う。そこから生まれる連帯感がなめし革協会の存在を高めてきたと感じた。(文/ 長谷川香苗)