vol.55
「ローニン(浪人)バイク」

12月の半ばになると、マスコミはニュースやドラマなどを通じて、赤穂浪士にまつわるエピソードを盛んに採り上げる。そのため、日本人のなかには、冬の風物詩の1つとして忠臣蔵の物語が定着しているように感じられる。

ところが、このストーリーは、海外でも一部に熱狂的なファンを得ていたようだ。その証が、コロラド州デンバーに本拠地を構えるローニン(浪人)モーターワークス(www.the47.com)からリリースされる47台限定の「ローニンバイク」である。

このハイパフォーマンスバイクは、ハーレーダビッドソンが、一時、社内ブランドとして生産していたロードスポーツモデルの「ビューエル1125シリーズ」をベースに、大幅なカスタマイズを施したもの。ハーレーダビッドソンは、売り上げ低下を理由に2009年をもってビューエルシリーズの生産を中止したが、熱心なファンの眼からは、赤穂藩に対して理不尽な采配を振るった幕府の横暴と同列に思えたに違いない。

ローニンモーターワークスは、中古のビューエル1125を47台確保し、スーパーバイク然として、いささか個性に欠けるカウル付きの外観をネイキッド化。1台ずつに赤穂浪士の名前が刻まれたプレート(例えば、45号車は木村岡右衛門貞行から、Kimura Sadayukiと命名)が取り付けられ、12台、10台、8台、6台、4台、2台、5台のロットごとにカラースキームなどを変えながら順次リリースするほか、価格が第1ロットの38,000ドルからロットごとに高くなるというユニークな販売戦略を採る。

デザイン的には、特徴的なメインフレームとリアサスペンションアームの形状はそのまま生かしつつ、フロントサスペンションを通常のテレスコピックタイプからリンク式に変更し、ライダーの体重や好みに応じた調整が細かく行えるようにしたうえでカーボンファイバー製カバーで覆い、猛獣の前足のような力強さを与えた。そして、一般にはヘッドライトがくる位置にラジエーターを配し、冷却効率を最大化するという大胆なレイアウトを採用。排気口の位置や形状も工夫し、全体にコンパクトさを重視したまとめ方がなされている。

原稿執筆の時点で実際の生産はまだ最初の12台しか行われていないものの、すでに仕様や価格すら未公開のロットも含めて19台が売約済みとなっており、人気も上々のようだ。

ただし、こうした製品シリーズ名を日本のメーカーが用いたとしたら、海外での反応は良くとも国内で賛否を呼んだ可能性が高い。しかし、実際には国産メーカーもギリシャ神話などから製品名を拝借していることがあり、コンセプトさえしっかりしていれば受け入れられる下地はありそうだ。

いずれにしても、このローニンバイクは、ハイエンドバイクの購入者の志向性や心理にまで踏み込み、名称も含む製品のストーリー性と一体化したグランドデザインの下で綿密に企画され、制作されたニッチマーケティング製品の好例と言って良いだろう。