富士フイルム デザインセンター長 堀切和久氏インタビュー

現在「AXIS」で展開中の富士フイルム デザインセンターによるシリーズ広告。「富士フイルムデザインとは何か」を発信するものだ。同センター長の堀切和久氏自ら手を動かしデザインしているのが興味深い。同氏に今回のシリーズ広告のコンセプト、そして富士フイルムデザインの現在について聞いた。

今回の企画広告シリーズのコンセプトについて教えてください。

富士フイルムの「らしさ」を表した広告にしたいと考えました。広告を見ていただくとわかりますが、“富士フイルムデザイン”はデジカメから内視鏡、化粧品からシネマレンズ、チェキから医療機器、インスタントフイルムからレントゲンフイルムまで広い分野をカバーします。この「コンシューマーからプロシューマーまで」の “幅”が「らしさ」だと考えます。そのため毎号、コンシューマー製品とプロシューマー製品を左右のページに振り分けて両雄を対比させています。

僕が入社した頃は「富士写真フイルム」という会社でしたが、ご存知のようにデジタルカメラをはじめとするデジタル機器の波が押し寄せ、それまでビジネスの7割を占めていたフイルムが一気に減り、結果、社名から「写真」が外れ、「富士フイルム」となりました。この過渡期にそれまで水面下でやっていた技術や、研究の成果を一気に机上に上げて、われわれの新しいコアとは何かを考えることになりました。例えば、2014年の創立80周年の広告では、「デジタルイメージング」「ヘルスケア」「高機能材料」「グラフィックシステム」「光学デバイス」「ドキュメント」という6つの主要な事業分野を挙げていますが、これからも7、8、9と増えていくはずです。

今回のAXISのシリーズ広告では、富士フイルムのこれらすべての製品やサービスにデザインが寄り添っている、すべてにデザインが関わっている、ということが言いたかったのです。自分の入社した頃を思い出すとまさか化粧品をデザインするとは思ってもみませんでした(笑)。最近は高機能材料のように“形のないもの”もあり、それを使っての新しいサービスのイメージ(出口)を構築してほしいというデザイン依頼が事業部や研究所から増えています。

富士フイルムとしての新しい核を探す段階で、デザインが担当する分野も大きな広がりを見せていると?

そうです。大きくプロシューマー用とコンシューマー用にカテゴライズできます。コンシューマー用というのは、カメラからフォトブックや化粧品など一般のユーザーに向けたもの。プロシューマー用というのは放送局用の機器や内視鏡などの医療機器、つまりプロが使うものです。それらのデザイン制作が同じフロアー内で同時進行している、時に違う分野のデザイナー同士が意見を交わしながら交流する。このスタイルが富士フイルムデザインの特徴でもあり強みでもあります。その部分を今回の一連のシリーズで表現したいと考えました。

AXIS169号より、内視鏡操作部(左)とデジタルカメラ「X-T1」。大きな画像はこちら

各デザイナーにはそれぞれ担当する事業分野があるのでしょうか。

カメラ、化粧品、医療機器というように分野ごとに分かれていますが、10月の新体制から、それぞれのグループが専門分野に加え異なる分野(新規分野のソリューション)のデザインも担当するようにしました。“本籍”をつくると、どうしても「今とても忙しくて時間がとれません」と閉じこもりがちになりますから、そうならないようにしています。

だから、1つのグループが、デジカメのGUIのデザインをやりながら、ナノ関連の技術をどうやって世に出していくかという仕事を同時にやっていたりします。事業部ごとに仕事の進め方も違いますので、デザイナーにとっては大変な部分も多い。しかし、普段化粧品関連の仕事をしているデザイナーが、高機能材料のプロジェクトで今までにない用途を思いつくかもしれません。専門を設けるとどうしても切り口が同じになりますから、既成概念にとらわれることなく、常に新しい視点で動けるようにしたいのです。

AXIS 170号より、「STALIFT ジェリー」(左)とシネマカメラ用レンズ「ZK」。大きな画像はこちら

現在デザイナーは何人いらっしゃるんですか。

40名ほどです。決して大きな所帯ではないので、ひとりひとりがたくましく機能しています。そのため新人にしても良い仕事が次々に回ってくるので、自ずと実績と責任感がつくという感じです。

AXIS 171号より、「CONSOLE ADVANCE」(左)と「チェキ instax mini 25」。大きな画像はこちら

デザインセンターが事業の川上のほうにどんどん関わっていると感じられます。

その昔は中流以降の仕事、つまり仕様が決まってからのデザインが多かったと思います。それが、商品、サービス、技術、研究などでの目に見える実績が少しずつ認知され、だんだんと上流工程に入る機会が増え、戦略を一緒に考えるようになりました。経営トップも企画とデザインは表裏一体で、一緒に何かを生み出していくべきだと言っています。だから生きた情報もどんどん入ってくるし、事業部や研究所と一体感を持ってその醍醐味を味わっています。

現在では、料理人でも新鮮な材料を選びに自ら畑に行ったり、釣りに出たりする人がいます。良い料理を出すために、ベースとなる材料まで自分が関わる。デザインも同じで、良いデザインのためには、もっともっと上流に上り良い素材を見つけてくる必要があります。もちろん最後の部分でクオリティの高い料理(デザイン)を出すというのは前提ですが。

AXIS 172号より、X-layフィルム(左)とinstax フィルム。大きな画像はこちら

富士フイルムのデザインフィロソフィーは「誠実なデザイン」となっています。

医療や化粧品、デジカメもすべて現場に真実があります。現場にたくさんヒントがあって、泥臭く言うと「現場密着」。それをカッコ良く言いかえると「誠実なデザイン」。医療の現場を見てない人が「こうだったらいいのにな」という程度でデザインしていても、本当のソリューションにたどり着くことはできないと思います。

Photos by Osamu Kurihara

今回の広告シリーズはデザインセンター長の堀切さん自らデザインしていただいています。

自分にとって、改めて「富士フイルムのデザインとは何か」を考える良い機会になっています。たぶんセンター長が自らデザインしている会社ってない思います。ましてや私はプロダクトデザイナーですし(苦笑)。でも “手を動かすセンター長”も悪くないと思い、自分を励ましながら、メンバーのみんなと同様“新規分野”を楽しんでデザインしています。

富士フイルムのデザインのホームページはこちら