REPORT | 講演会・ワークショップ
2014.11.21 18:39
虎ノ門ヒルズで催された「Automotive Innovation Forum 2014(AIF 2014)」。午前の基調講演(前編はこちら)に続き、午後には4つのトラック(分科会)に分かれてレクチャーが行われた。
それぞれのトラックは、デザイン、CG 活用(可視化)、解析(シミュレーション)、生産技術(ファクトリ デザイン & プランニング)の分野。オートデスク社の製品エキスパートや、ユーザー企業などが講演した。
デザイントラックでは、米国オートデスク開発部門 メカニカルデザイン プロダクトラインマネージャのマイケル・ウィズレック氏が登場。Alias による最終デザインデータ作成について語った。
▲マイケル・ウィズレック氏
主題になったのは、データの相互運用性について。キーワードは「クラスAサーフェス(高品質な自由曲面の集合)」だ。
単なるデザインデータと違って、設計段階の仕事も入ったデータという解釈。他の多くのプロセスとの関連を持ち、データ管理のスタート地点でもあるという。クラスAサーフェスを軸にして、最終的な造形データがつくられるようになる、とウィズレック氏は見通しを語った。
▲クラスAを語るウィズレック氏
Aliasは従来、デザインコンセプトを練る段階で使われてきた。「デザインとは何の制約も受けないで形をつくる最初のプロセスであり、そのスケッチで描かれるカーブには数学的な定義はない」とウィズレック氏。
一方のクラスAサーフェスは、他のプロセスと連携するため「ベジエ曲線」などの数学的な裏づけがされている。ここをしっかりつくっておけば、設計段階で勝手に形が変わることがない。デザインとは、クラスAの上位概念(マスター)であると氏は語った。
現在ドイツのカーメーカーを中心に、グレーゾンであるドアの裏側にさえも、最高品質の面データが求められるようになっているという。今後、ますますクラスAサーフェスの領域は拡大していくだろう、と氏は述べた。
ただし、デザインツールがいいだけではつくることができず、全体のプロセスの底上げしていかないと強調。Aliasのほか、関わるプロセス全体に手を入れていくという。
名前が挙がったのは、データ管理のための「Studio Wall」、最終データをシミュレーションする「Simulation Moldflow」、ドイツのカーメーカーでの使用率が高いビジュアリゼーションソフト「VRED(ブイレッド)」など。それらとのつながりを高め、相互運用の最適化を図っていくという。
新しいトピックとして、CAM開発のDelcam(デルキャム)社との合併にも触れられた。
カーデザインの現場では、クレイモデリングは廃れていない。むしろデータから作成したクレイモデルを修整し、再びCADに戻すのが重要なプロセスとなっている。そこで使われる「PowerMILL」は、NCを操ってデジタルモデルとクレイモデルを同時に変更するソフトだ。
▲「PowerMILL」
CG活用トラックでは、米国オートデスク シニア インタストリーマネージャのDetlev Reicheneder氏が「設計データ管理と連動したハイエンド CG の可能性」のタイトルで講演。
▲Detlev Reicheneder氏
多種多様なソフト間の連動を強化することで、組織内でデジタルデータの幅広い活用が可能だというReicheneder氏。製品ライフサイクル管理(PLM)ソフトウェアの統一基準「CODE of PLM OPENNESS(CPO)」の取り組みへ同社が参加していることにも触れた。
CADデータをそれそれの用途に分けて管理するにも、PLMシステムが統一化されているのが望ましい。例えば、近年ハイエンドのCGで重要視される「光源データ」の管理。誰がどの目的で、どんな風に変更したかといった記録が引き継がれる。
データがどのように変更され、今どこにあるのか。データ管理のためにシステムを整えるのは、情報を集める時間や繰り返す手間を削減することになり、組織のROI(投資利益率)を向上させることにもつながるという。
Aliasなどのソフトと連動する「Studio Wall」は、デジタルデータを管理するための新しいデジタルポートフォリオだ。既存のPLMのようなインターフェースではなく、直観的に3Dデータを管理できる。
▲「Studio Wall」
Webブラウザで閲覧できるのも特徴で、プロジェクトに関わるメンバーの得意分野やソフトウェアの習熟度を超えて、データ活用を円滑化が期待できる。
解析トラックでは、米国オートデスク シミュレーション製品 ディレクターのデレク・クーパー氏が、同社の「自動車軽量化ソリューション」を解説した。
▲デレク・クーパー氏
CO2の削減のためには、ハイブリッドや電気自動車などの代替エネルギー利用、小型エンジンの開発によるパワートレインの効率化など、さまざまな技術がある。
なかでも車両の軽量化は、カーメーカーが取り組む課題の筆頭に上がる。米国の自動車業界では、政府の規制に沿うかたちで、2011年と12年を比べ平均車体重が3%軽量化されたという。それにともなって、重さは10%軽量化。燃費が6〜7%よくなったと予想されている。
▲米国の軽量化事情
また、強化プラスチックや炭素繊維複合材の使用も一般化し、プラスチック素材の利用は50%になった。トレンドとなっているのが、連続繊維強化プラスチック。ひじょうに強いが高価なため、現在では特殊用途に使われている。
クーパー氏は「金属からプラスチックへの大転換が起こっている。新しい戦略ではないが、重要だ」と指摘する。こうした先進材料を使うと、軽量化に加えて、カラーリングや製造効率の向上といったメリットもあると語った。
製造過程においては、プラスチック射出成形設計ソフトウェア「Simulation Moldflow」が役立つ。繊維配向の影響を予測する圧縮成型のシミュレーションが進化しているほか、時間に連れて進む「進行性破壊」を構造解析の視点で確かめられるという。
興味深いトピックは、サンフランシスコにつくられた「Moldflow プラスチック・ラボ」の紹介だった。物理的な実世界とデジタルな世界との出会いを掲げていて、製造装置や積層造形などを試せるという。
▲「Moldflow プラスチック・ラボ」
物理的な検証プロセスをするための施設だが、ものづくりの原点へ回帰するように映るのが面白い。
ネット上のトピックでは「オートデスクラボ」(http://labs.autodesk.com)の紹介があった。開発中のいち早く技術を試用してもらうことで、同社製品に利用者の声を役立てるほか、広く集合知をすくい上げるためのコミュニティを目指しているようだ。
(文・写真/神吉弘邦)
前編はこちら
当日の基調講演、特別講演については、下記サイトよりご覧いただけます。
Autodesk MFG Online https://www.youtube.com/autodeskmfgonline1/
当日のセッションで配布された資料の一部を下記サイトで掲載しています。
http://www.autodesk.co.jp/seminar-event/manufacturing/aif-2014