カルテルCEOのクラウディオ・ルーティ氏、インタビュー

10月に来日したイタリア・カルテルのオーナー兼CEOクラウディオ・ルーティ氏。25年にわたってカルテルを率いるルーティ氏に、60年以上に及ぶメイド・イン・イタリーを体現するカルテルの強みについて聞いた。

インタビュー・文/長谷川香苗

▲ ロン・アラッド「ブックワーム」。もとは金属で製作された本棚。カルテルの高度な射出成型技術によって堅牢性を兼ね備えた自由な曲線がポリカーボネイトでも可能となった。


――この数十年でイタリアの家具産業はどのように変わってきたと感じますか?

クラウディオ・ルーティ(以下ルーティ) 意外かもしれませんが20年前というとイタリア家具産業がまだまだ自国のマーケットに注力していて、市場規模も小さかった時代です。しかし今では、イタリアブランドは世界中に輸出されるまでになりました。カルテルに関して言いますと、世界126カ国に130の旗艦店、250のショップインショップを構え、売上の比率はイタリア国内が2割、残り8割は国外になっており、ビジネスの多くは海外市場に牽引されています。だからといって海外の市場ごとに異なるデザインを投入しているかというとそうではなく、世界中どこで手に入れても同じ製品なのが、カルテルだと思っています。


――カルテルはプラスチックという素材の持つチープなイメージを払拭し、スタイリッシュな素材へと昇華させることに成功しています。戦略でしょうか?

ルーティ カルテルはプラスチックを家具に用いた最初の企業として常に革新性を追求し、プラスチックの用途、可能性を広げてきた企業です。研究開発部門ではプラスチックの特性を知り尽くしたうえで、どのような成型方法が適しているのか、強度を保つためにはどのように配合したらいいのか、どのようなデザインが適しているのかを研究してきました。まずデザインができて、それを形にするため一からプラスチックを開発することもあります。こうして誕生したカルテルのプラスチックはガラスのように透明、そして延性を備えて有機的な造形が可能、堅牢でありながら軽量という特殊素材であり、決して安価な素材ではないんですよ。

▲ フィリップ・スタルク「アンクル・ジャック」。開発に4年かかったというポリカーボネイト射出成型の限界に挑戦した、世界最大のソファ。


――1988年にカルテルの経営を率いるようになって、カルテルのデザイン界での存在感が増した気がします。

ルーティ プラスチックという素材は、加工するまでは目に見える固有性を持ちません。つまり、高度な技術を用いていても、デザインによって形を与えないと伝わらないのです。そのため、私が会社を率いることになった1988年以降、カルテルの技術のうえに、人々の情感に響くデザインを着せることのできるデザイナーとのコラボレーションを行ってきました。デザイナーには、デザインができ上がったら私のもとへ見せに来るのではなく、毎月毎月デザインを持ってくるように課します。アイデアが浮かばなくても、必ず毎月何かを提案しなくてはいけないというところまでデザイナーを追い込むのです。人によっては1年間続くこともあるので大変でしょうが、私もすべてのプレゼンテーションに立ち会い、時間を充てます。こうした真剣勝負のなかから、カルテルの製品は世に送り出されるのです。


――生産拠点をアジア圏に移すブランドが多いなか、イタリアの家具産業の今後の展望についてお聞かせください。

ルーティ いちばん重要なのは、品質を保つことです。そのためにはクリエイション(デザイン)の場所と生産の場所は、同じであることが望ましい。今の時代、製品の価格を抑えたほうが販売につながるという理由から、アジア圏で生産する企業もあるかもしれません。カルテルの製品は、すべてイタリアのエミリヤ・ロマーニャ州でつくっていますが、世界のセレクトショップ2,400店舗で扱ってもらうことで1店舗当たりの販売は少なくても、全体で見れば大きな売り上げになり、価格を下げることなくビジネスが成り立つ仕組みになっています。こうした独自の販売網の構築は、私のファッション業界での経営が長かったことが生かされていると思います。

▲ パトリシア・ウルキオラ「マトラーセ・ベース」。ふくれ織りの質感をポリカーボネイトで再現したベース。