INTERVIEW | インテリア
2014.10.17 17:35
10月8日、デンマークのテキスタイルブランド「クヴァドラ(Kvadrat)」のショールームが南青山にオープン。来日したCEOのアンダース・ブリエル(Anders Byriel)氏に、待ち望んでいたという日本でのショールーム開設について話を伺った。
インタビュー・文/長谷川香苗
▲ ショールームに並ぶ見本帳は圧巻 Photo by Nacása & Partners
ーーこのタイミングで日本に進出した経緯について
アンダース・ブリエル(以下ブリエル) 遅すぎたというのが正直な気持ちです。クヴァドラは商材を売るだけの企業ではありません。建築家、デザイナーのコミュニティーの一員だと捉えています。クヴァドラのビジネスの8割はテキスタイル事業です。建築家のプロジェクトの室内装飾をはじめ、モローゾやカッペリーニをはじめとした家具のための張り地を提供しています。伊東豊雄さん、隈 研吾さんといった日本の建築家やデザイナーとのネットワークも強い。だからこそ日本にショールームを設けて日本のデザインコミュニティーの一員になることはかねてからの夢でした。しかし、ロケーション、専門知識を持ったスタッフの確保などさまざまな条件が整うまで時間がかかってしまいました。やっと青山にショールームができたことで日本のデザイナーはクヴァドラの150種類のデザインパターン、3,500色のカラーバリエーションすべてを目で確認でき、時差を気にすることなく電話で問い合わせていただけると思います。
ーー1998年にCEOに就任されてから、クヴァドラの売り上げが4倍になったとは驚きです。
ブリエル クヴァドラ単体ではなく、20の関連会社との連結決算の数字ですから(笑)。クヴァドラの主力商品はテキスタイルですが、ブルレック兄弟がデザインしたテキスタイルを使った3次元のタイルブランド「クラウド」、今年のミラノサローネの時期に伊東豊雄さん設計のショールームが完成した200年の歴史を持つカーテンブランド「キナサンド」、吸音パネル材の「ソフトセルズ」といった関連ブランドを抱えています。吸音パネル材はヘルツォーク・ド・ムーロン設計のノバルティス ファーマ本社やスイス国会図書館に採用されています。既存事業の強化、さらに事業開拓のためにクヴァドラ・ファミリーを増やしてきたのです。最近では、BMWのような自動車業界のトップブランドにも、クヴァドラのテキスタイルが採用されています。クルマのシート材は家具の布地とは機能面で少し異なり、長時間同じ体勢でも疲れない、耐摩耗性、伸縮性などをより突き詰める必要があります。
ーーそうしたさまざまなニーズに応えるための供給体制についてお聞かせください。
ブリエル クヴァドラのテキスタイルはカラーバリエーションや芸術性でも知られていますが、基本はクオリティです。世界で2万人近い建築家やデザイナーと仕事をするなか、商品としてばらつきのない品質を量産できる体制が求められます。そこで、これまでクヴァドラの商品のサプライヤーであり、複雑な構造の織りの生産にも対応できる英国のウールテックスとオランダのガウディウムといったウールメーカーの株式を取得し、関連会社にしました。
▲ オランダの伝説的テキスタイルデザイナー、フランク・ダイクマイヤーによるデザイン。見た目はシンプルながら、織りの組成はとても複雑。そのため見る角度によって色が変わる
ーーデザイナーを起用したオリジナルコレクションを数多く発表していますが、デザイナーを選ぶ基準は?
ブリエル スタイルに一貫性があること。一度ご一緒したデザイナーとはシリーズで商品を発表することを念頭に入れているからです。そのため、気になるデザイナーがいたら時間をかけてその活動を追い、検討します。クヴァドラとデザイナーとのコラボレーションは偶然の出会いからは生まれないのです。すでにブルレック兄弟とは長い関係を築いていますし、最近デザインをお願いしたパトリシア・ウルキオラともプロジェクトは継続していきます。スタイルがぶれることなく、その人の筆跡のように取り繕うことのできない芯を持っているデザイナーに仕事を依頼しています。
ーークリスチャン・ディオールのデザイナー、ラフ・シモンズとのプロジェクトもあります。
ブリエル ファッションは踏み込むことができないでいた分野でした。クヴァドラのウールのテキスタイルは10年保証で、それだけ長きにわたって使用することを前提としています。顧客のなかには、新しいテキスタイルに張り替えたいのに傷んでいないから替えられずに残念という方がいるくらいです(笑)。半年ごとにコレクションが入れ替わるファッションとどのような接点があるのか、ずっと考えてきました。ラフ・シモンズはクヴァドラの持つ芸術性というよりも、テキスタイルの質感、クオリティーに魅了されて一緒にクヴァドラのデザインをしたいと話が進みました。
ーー今後のクヴァドラの展望についてお聞かせください。
ブリエル 建築分野、家具分野向けテキスタイル商材が主軸であることに違いはありませんが、今後数年はアップサイクルに力を入れていきます。古いテキスタイルの価値を見直し、新たなテキスタイルとして生まれ変わらせるための技術を開発しています。すでに特許申請済みで、こうした素材開発と従来の商材の両方の分野でビジネスを展開していく予定です。
▲ クヴァドラの基本とも言えるテキスタイルは、デンマークを代表する家具デザイナー、ナナ・ディッツェルによるもの。誕生から40年以上経て、現在は58色のバリエーションから選択可能
▲ デンマークのグラフィックアーティスト、フィン・スクッドによる「Divina Melange 」コレクション。画家としても活動するスクッドならではの色彩感覚から生まれるテキスタイル
Kvadrat Tokyo Showroom
東京都港区南青山3-4-6 Aoyama 346 #103
Tel: 03-6455-4155
Fax: 03-6455-4156
平日9:00〜18:00(土日祝は休み)
http://www.kvadrat.jp