スマートフォンの台頭によって大きく衰退したコンパクトデジタルカメラのあり方を再考する試みが、カメラメーカーの側でなされていることは周知の事実である。しかし、ここにきて、スマートフォン中心の製品展開を行う企業自ら、本体内蔵のカメラ機能を補完し、単体でも利用できる新しいタイプのイメージキャプチャデバイスを生み出す動きが出てきた。それが、グーグルのネクサスシリーズなどのOEMを行っている台湾のHTCによる「REカメラ」(199ドル)だ。
スマートフォンが、ここまで写真撮影を身近な存在としたにもかかわらず、なぜ改めて別体のカメラを企画・開発するのか? その答えは、筆者が本誌vol.171の特集「未来の”撮り方”」やこのシリーズの「ストライク・カム」の回でも触れたように、アクションカメラ人気や、構図を意識せずにシーンを記録しようとするカジュアルユーザーの撮影スタイルの変化にある。
例えば、防水や耐衝撃仕様のスマートフォンであっても、大きなスクリーンを持つ板状のフォルムでは、アクションカメラのような取り回しの良さは得られない。また、万が一の損傷を考えると、スマートフォン本体よりも別体のカメラのほうが、ラフな環境下で使う際の心理的な負担も小さくて済む。
アクションカメラの文法に倣い146°という広角レンズを搭載するREカメラは、自分撮りを含めて撮りたいシーンのある方向に大まかに向けるだけで確実に撮影できるため、スクリーンを内蔵せずに、徹底した小型化(幅26.5mm x 高さ97.7mm、重量66g)と扱いやすさを目指したつくりになっている(無線通信によってスマートフォンのスクリーンをファインダー代わりにすることも可)。
全体のフォルムは、片手で握ってそのまますぐに撮影に移れる逆L字型のシリンダーであり、大きめのシャッターボタンが親指の位置に、そしてスローモーション撮影の切り替えボタンが人差し指の位置に、それぞれ設けられた。
それ以上、物理的なスイッチ類を持たないのは、電源のオン・オフをグリップのセンサーで行い、静止画と動画モードはシャッターを押す長さで自動的に判別される仕組みになっているためだ。
シャッターボタンのある面は、米国の学校やフードコートなどで見かける、下の画像のような背の高い金属製のゴミ箱を思わせる。筆者は、そのシンプルなゴミ箱のデザインを高く評価しているので、これは賛辞だが、こうした身近な製品のイメージを引用するデザインは、アップルのジョナサン・アイブも一時、初代「iPod shuffle」(板ガムやミントケースを思わせるフォルム)などに採用したことがあり、ともすれば異端的な存在の製品に親近感をもたらすことに成功している。
▲「REカメラ」を見て思い出した、背の高い金属製のゴミ箱。記憶にある製品と同じ画像が見当たらないのだが、全体がこのような形で、シルバーのリッド部分が円形のもの
▲ HTC「REカメラ」のカラーバリエーション
HTCは、スマートデバイスの世界ではアンドロイド陣営の一員ではあるが、REカメラにはiOS用の接続アプリも用意され、このデザインの魅力を武器に、大きな市場を狙う意図が見てとれる。
スマートフォン全盛の今、あえて単独のカメラに求められる機能を整理して可能な限り直感的に使えるように実装し、カラーバリエーションにもひと味違う個性を盛り込んだREカメラが、こうした伏兵的なメーカーから登場したことで、従来路線のコンパクトデジタルカメラ製品は、ますます岐路に立たされることになりそうだ。