私たちが日常的に利用しているスマートフォンの性能が、かつてのメインフレームコンピュータのそれをはるかに上回っていることは、すでに多くの方がご存知だろう。しかし、加速度や傾き、周囲の光量などを計測し続けている内蔵センサー類や撮像素子の、本当のポテンシャルの高さを知っている人は少ない。
それは、本来、それらのセンサーが、ユーザーに意識させずにさまざまな制御や調整を行う目的で組み込まれているため、機能していることがわからないほうが、製品としては優秀であるということと無関係ではない。しかし、それらをあえて意識的に用いることで、新たなデザインの可能性が生まれようとしている。
スイスのローザンヌ美術大学(ECAL)のマーク・デュボスが試みている「オープンコントローラーズ」プロジェクトは、日常的に見かける木の器やボール紙の箱などの物体の中にスマートフォンを入れ、ユーザーがその物体を操作したり、物体に当てる光の向きを変えることで、画面内の仮想環境とのインタラクションを可能にするものだ。
例えば、2個のボウルからなる球体を回す、あるいは転がすことで、画面内のカラクリを動かして、特定の2つのアイテムを衝突させる。透光性のあるコーンの中のスマートフォンのカメラが、外部からの光の方向を特定して、その方向に画面内のアイテムの断片を花びらのように拡散する。あるいは、箱の面か辺を必ず床と接した状態にして転がすことで、画面内の箱が障害物を避けながらアイテムを集めていくなど、アプリ次第で物体の形状や物理特性に応じた動きが楽しめる。
将来的には、スマートフォンと組み合わせる物体を3Dプリンタで出力可能なデータの形で共有し、より複雑なインタラクションを実現するようなことが可能になるはずだ。すでにユーザーの手元にあるスマートフォンの高性能な頭脳とセンサーを活用し、プロダクトやサービスの導入コストを抑える。そんな取り組みが、今後は加速度的に増えていくに違いない。