REPORT | 建築
2014.07.11 21:31
埼玉県立近代美術館で「戦後日本住宅伝説―挑発する家・内省する家」展が開催中です。丹下健三さんの自邸《住居》(1953年)から始まり、伊東豊雄さんの《中野本町の家》(1976年)、安藤忠雄さんの《住吉の長屋》(1976年)まで、戦後に建てられ、伝説となった16軒の日本住宅を取り上げています。
建築の展覧会というと写真、模型、図面で構成されるのが定番ですが、本展はそれだけではありません。竣工時の写真に加えて数十年経って住み手の暮らしぶりがうかがえる現在の写真、さらに新たに撮り下ろした住み手へのインタビュー映像もあります。
▲ 清家 清《私の家》1954年 大判写真
そして模型は、今回の展覧会のために建築系の学生さんたちが制作したもの。斜面に建つ家などの周辺環境もきちんとつくり込まれ、住宅が建つ立地環境を把握するうえで欠かせない要素となっていて、模型そのものも力作です。加えて、それぞれの住宅の特徴がよく表れている空間がタペストリーと呼ばれる3メートル大の大判プリントで出力され、住宅のスケール感を肌で感じることができるように構成されています。
▲ 安藤忠雄《住吉の長屋》1976年 模型
素材にもこだわった模型。同じ形でもスタイロフォームでは伝わってこないものがあります。
▲ 東 孝光《塔の家》1966年 原寸大図面
面積約20㎡という狭い敷地に建つ塔の家。その一階部分の間取りが原寸大で会場に登場。立ってみると意外にも窮屈感はありません。今では当たり前のアイランド型キッチンのアイデアをすでに取り入れています。
1つ1つの住宅プロジェクトが緩く仕切られた個別の空間に展示されていることもあって、大判プリント写真を眺めながら展示を見ていくと実際に1つの住宅街を回遊している感があります。
▲ 菊竹清訓《スカイハウス》1958年 大判写真
▲ 菊竹清訓《スカイハウス》1958年 模型
今では建築界の重鎮となっている日本の建築家の多くが大規模の公共建築からではなく、まず身内や知り合いを通して住宅を設計することから世に出ていったのも、駆け出しの建築家が家を設計できるという日本の特殊な事情があったからと言えます。ヨーロッパでは数百年前の建物の内装を変えながらずっと住み続けるのに対して、日本では戦後、政府が持ち家政策を進め、民間の住宅メーカーの大和ハウスが1959年に、積水ハウスが1961年に分譲住宅を販売するなど、50年代から70年代にかけて一戸建て住宅の需要が伸びた時代でした。
展覧会で取り上げている16の伝説とされている住宅もこうした社会背景の下、誕生しています。住宅を建築家に依頼して都市部に家を建てるというのはヨーロッパやアジアではよほど裕福でないとできませんが、日本では建築家は施主にとって身近な存在であり、友人であることもしばしば。若いサラリーマンが知り合いの若い建築家に前衛的な家を建ててもらうケースは今でも続いている状況であり、だから海外の建築雑誌は日本の住宅の独創性に驚きます。
▲ 毛網毅曠《反住器》1972年 大判写真
▲ 毛網毅曠《反住器》1972年 模型
▲ 石山修武《幻庵》1975年 大判写真
展覧会を通じ、建築家の思い描いた住宅だけでなく、時を経て使い手である施主にとって住宅とはどのようなものなのか、住宅を立体的に捉えることができそうです。
世界で起きている建築の動きが今のようにパソコンのモニター画面ですぐにわかる時代ではなかった1950年から70年代。当時、駆け出しの建築家たちは人間が暮らす住まいをどのように考えたのか。そして時を経て現在、その住まいではどんな暮らしが日々営まれているのか、いろいろ思いを巡らせるのも楽しいものです。会期は8月31日(日)まで。(文・写真/長谷川香苗)