武蔵野美術大学2013年度広告シリーズ そのコンセプトについて

AXISでは、2013年5月1日発売の163号から今年3月1日発売の168号までの6回にわたって、武蔵野美術大学のシリーズ広告を掲載してきました。そのユニークなデザインから、AXIS編集部に対して「コンセプトは何?」などいくつかのお問い合わせをいただきましたが、今回制作を担当した日本デザインセンター大黒デザイン研究室の大黒大悟さんにお話をうかがいました。

今回の広告シリーズのコンセプトについて教えてください。

あまり近くから見るとわかりにくいのですが、離れて見ると文字が浮かび上がります。これはグラデーションではなくて、色を2版重ねたもの。線の幅が微妙に違うのでグラデーションのように見えるだけなのです。つまり線の幅だけで色の濃淡を表現しています。2つのものが重なって1つのメッセージになる、「融合」というコンセプトです。

こういう手法は以前もやっておられたのですか。

このシリーズが初めてです。難しかったのは、読みやすさと読みにくさの間のチューニングです。1度読めてしまえば、もうそれにしか見えませんが、読めないと全く読めない。制作段階では、もう少し読みにくくするか、あるいは読みやすくするかなどの試行錯誤を重ね、そのあたりの調整を常にやっていました。
 さらに、上に重ねる色によってコントラストが変わるので、いつも同じようにはならない。毎号いちからつくり上げていきました。それにモニターでは見えなくて、出力してみないとわからないのです。印刷では網点が変わってしまうと見えなく(字が浮かび上がらなく)なってしまうので、印刷会社の方は大変だったと思います。

それぞれの言葉と色はどのように決めていったのでしょうか。

武蔵野美術大学の方からのオーダーとして、広告は一期一会なので、見る人にそのときどきの季節感のようなものを感じてもらいながら、次はどんなものがくるのかを期待してもらえるようなデザインにしてほしいということでした。そこで直感的に幅の違う2色を重ねることで、毎回違った言葉が浮き出てきたら面白いのではないかと思ったのです。    
 言葉は、創造活動の場としての美術大学に相応しいものを選びました。それが「Art」「Live」「Message」「Design」「Idea」「Emotion」です。スタートの春は「Art」で、入学式もあり新学年のはじまりなので情熱的な赤。次の「Live」は生命やエネルギーが溢れる感じで黄色。夏の「Message」は清涼感のあるものにして、「Design」は秋の雰囲気。「Idea」は唯一モノクロですが、これには1つのアイデアで世の中を一変させるというような意味を込めています。そして最後の「Emotion」は、静かな人やにぎやかな人など人はいろいろだけれど、最終的にはいかに人を感動させるかが大事で、そこに勇気を持ってほしいという問いかけになればと考えました。

周囲の評判はいかがでしたか?

コンセプトについていくつも問い合わせをいただいているのはとてもうれしいことです。どちらかというと静かな広告で、パンチがどうということはありませんが、個人的にはとても実験性の高いグラフィックができたと思っています。

5月1日発売の169号から新しいシリーズが始まりました。

前回のシリーズも好評いただいたのですが、だからと言って同じことを続けていては、ムサビを目指す生徒や在校生などからも、また同じことをやっていると思われてしまいます。だから、次からはガラッと変え、全く違ったビジュアルになります。新しいシリーズでは五感を表現しており、抽象的なものだけでなくて、具体的なモチーフを入れているので、前回シリーズよりも、わかりやすいと言えばわかりやすいかもしれません。

武蔵野美術大学の2014年度の広告シリーズ第1弾はAXIS169号でご覧いただけます。

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