筆者は自転車での移動時にも、プレゼンテーションやデモのために結構な荷物を運ぶことが多い。したがって、バックパックやメッセンジャーバッグの場合には、入り切らない袋などを外側にぶら下げたり、もっと嵩張るものの場合には、何台か所有するなかから、実用車並みの荷台を持つ1台を選んだりする。
それにしても不思議なのは、スタイルと積載性を両立させようとする製品が少ないことで、それは電動バイクの世界にも当てはまる。
本来はガソリンタンクやエンジンで占められていたスペースを、航続距離や最高速度を向上させるためのバッテリーに割り当てるのも、確かに1つの考えだ。あるいは、あえて中空のままで残して、内燃機関ではないという特徴を際立たせたデザインもある。しかし、コミューター的な用途ならば、荷物のことを考えたフレームデザインがあっても然るべきと思う。
フェッズは、ドイツのメーカーらしくこの問題と向き合い、フレームの中心に23リッターもの容量を確保したエレクトリックバイクを開発。昨年から販売を行ってきた。
同製品は、価格が5,990~6,990ドルと高めなのが難点だが、モーター出力やバッテリー容量の違いによって、免許不要で25km/hの最高速度と70kmの航続距離のものから、要免許で45kmの最高速度と110kmの航続距離を実現したものまで、計4種のモデルが用意される。
最大の特徴であるラゲッジスペースは、荷物の形状に関する制約を最小限に止めるためにオープンスペースとなっており、固定のためのベルトが上下2本設けられている。不定形な荷物も多い筆者自身の経験に照らして、これは賢明な設計であり、写真のようにさまざまな応用が考えられる点が良い。
このように、Eバイクの世界で合理性を追求したデザインが現れる一方、内燃機関を用いたバイクには、より趣味性を重んじる製品が意外な国からも登場しつつある。
バンディット9・モーターサイクルデザインの「イブ」(予価4,600ドル)は、燃料タンクとシートを一体化した(メーカーが呼ぶところの)ユニボディを特徴とするスリークなカフェレーサーだ。もちろん、荷物の積載など、全く考慮されていない。
ところが、よく観察すると、エンジンの側面カバーには”HONDA”のロゴが刻まれ、T字型のメインフレームは、どこかで見覚えのある形をしている。実はイブは、1967年型のホンダSSをベースにしたカスタム車両で、しかも、バンディット9は中国の北京を本拠地とする地元企業だ。
同社のカスタムバイクは、ファッション&カルチャーアイコンとして、エスクァイアマガジンやGQマガジンにも紹介されるなどしており、イブはその最新かつ最も先鋭的な製品に当たる。
ドイツと中国という対照的な国で生まれた、対照的な2台だが、どちらも「今」を象徴するモーターサイクルとして、気ニナルデザインなのである。
大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。