vol.7 最終回
「修理中(In a State of Repair)」

ミラノサローネでは、新しい製品やデザインが次々と発表され、購買意欲をそそられる一方で、修理することで愛用品を使い続けるアクションを促すイベントも企画された。

「修理中(In a State of Repair)」というタイトルのイベントは服のほころび、革の靴やバッグの破れ、縫い目のほつれなど、持ち込めば無料でお直しします、というもの。企画したのはイタリアのデザイナー、マルティノ・ガンベール。ドゥーモ広場に面したリナシェンテ百貨店の8つのショーウィンドウに、洋服、家具、自転車、皮革製品、本、玩具、家電、ジュエリーの修理工房を期間限定で登場させた。それぞれのウィンドウの中にはミシン、自転車部品、巻尺といった修理に使う道具と、直し終わった服や製品がディスプレイされるインスタレーション。そして、ウィンドウの前では、プロの職人たちが作業台の上でさまざまなアイテムをリペアする光景が繰り広げた。

毎日何万人もの観光客が往来するなか、工房にはさまざまなアイテムが持ち込まれていた。例えば、服の縫製をするのは普段、ミラノで劇場や舞台の衣装を制作するBackstage S.A.S Di Ghisolfi Raffaella & C. という組織に名を連ねるプロの針子さんたち。

▲ 職人たちの腕と創造性はものを元の状態に戻すのではなく、ワン・アンド・オンリーのアイテムに仕立て直してくれる

▲ バッグが壊れたり、靴のつま先が抜けたら、1896年からコモ県で皮革製品の工房を営むLa Clinica Della Pelletteriaが修理

▲ 「ジロ・デ・イタリア」の開催など自転車文化も強く根付くミラノ。自転車の修理工房を利用する人も多かった

ミラノサローネという消費文化を象徴するイベントの最中、捨てるのはしのびないので直してもらうという使う側の思いと、ものに対する愛しみを持つ職人たちの思いがつながり成り立ったイベントだった。(文・写真/長谷川香苗)