REPORT | プロダクト
2014.04.23 10:00
ファッション・メゾンのエルメスは、4回目の参加となるミラノサローネでエルメス初となる照明器具のコレクションを発表した。
「エルメスの照明をつくってほしい」。エルメスのアーティスティック・ディレクターのピエール=アレクシィ・デュマからそんな依頼を受けたのは、ミケーレ・デ・ルッキ。それから約3年。デ・ルッキがエルメスとともに開発に取り組み、生まれたのが「パントグラフ」と「アルネ」、それぞれ3つのバリエーションからなる2つの照明コレクションだ。
「Lampadaire Arche」高さ150〜300cm アームの伸び 113〜212cm
「Liseuse de parquet」高さ 118〜189cm アームの伸び 70〜84cm
「Lamp de travail」高さ 33〜71cm アームの伸び 69〜97cm Photos by Yann Deret
デ・ルッキが建築家の使う製図機器パンタグラフから着想したという「パントグラフ」は、しなやかにスウィングするアームによってランプの高さを自由に変えることができる抜群の操作性を持つ。パンタグラフのメカニズムを生かしながらも、無機質な「器具」になることなく、ランプシェードはシルク・ツイル、支柱、ACアダプター、コードまでもエルメスの職人芸を象徴するレザーのサドル・スティッチで包み込むなど、どこまでもエレガンスを追及した“エルメスの照明”だ。光源のLEDは支柱の脇に隠れたつまみで点灯・消灯・調光可能。LEDを取り換える際のことも考えて光源ユニットを特別に開発するなど、高価なものになるだけに、長く使うことを念頭に入れたサステイナブルなデザインとなっている。
調光部分のつまみ
もう1つのコレクション「アルネ」は、エルメスの原点である馬具へのオマージュを込めた照明。乗り手と馬をつなぐ手綱のように、サドル・スティッチで縫製したストラップがランプのベースとシェードをつなぐ。ツリーを思わせるデザインは、伝統という基盤のうえに育つ未来のエルメスをシンボリックに表しているようにも見える。
「Lampadaire」高さ 183cm ベース 42cm
「Lampe de chevet」高さ 39cm ベース 17cm
「Lampe de table」高さ 69cm ベース 26cm Photo by Yann Deret
テクノロジーに左右されがちな照明器具を彫刻のようなオブジェとして、さらに周りの空間に溶け込む存在としてデザインすることは、数多くの照明デザインを手がけてきたミケーレ・デ・ルッキにとってもチャレンジだったようだ。
ミケーレ・デ・ルッキとエルメスのシャンタル・グラニエ
さらに、フランス人デザイナー、ヤン・ケルサレによるポータブル・ランプ「ランテルヌ・ドゥ・エルメス」も発表された。こちらは円柱を四分割したそれぞれが独立するポータブルな照明器具。8時間使用可能な充電式電池によってACコードがなくてもそれぞれ別の場所に持ち運びできる優れものだ。
ヤン・ケルサレによる「ランテルヌ・ドゥ・エルメス」 Photo by François Lacour
エルメスのものづくりの現場において、職人たちの手もとやつくりかけのエルメス製品を照らす灯りは昔から大切。まだ灯りが貴重な時代、職人たちはランプに革を被せて長持ちするように大切に使っていたという。このように灯りはエルメスの製品を引き立たせるために欠かせない存在だ。こうしてみると、近年、ジャン=ミッシェル・フランクがデザインした家具の復刻版、坂 茂による壁面モジュールユニット、そしてフィリップ・ニグロによる家具といったインテリアアイテムを発表してきたエルメスにとって、現代の照明器具をつくることは自然の流れだったといえる。(文/長谷川香苗)