REPORT | プロダクト
2014.04.24 10:30
新たな商品やデザインが次々と発表されるミラノサローネ。そんななか、新しいものではなく、クリエイターたちの愛用品や影響を受けたアイテムを披露する展示がむしろ新鮮で、デザイナーたちから多くの関心を集めていた。
「Source Material」と題した展示は建築、デザイン、映画、料理などの分野で活動する40名のクリエイターに呼びかけ、それぞれが影響を受けたアイテムを解説とともに紹介するというもの。発案したのはデザイナーのジャスパー・モリソン、ダネーゼのデザインなどを手がけるジョナサン・オリバース、そして編集者のマルコ・ヴェラルディ。
ジャスパー・モリソンが選んだのは「シップスカーブ」と呼ばれる道具。かつて船を設計する際、さまざまな曲線を引くために使われた定規だ。ジャスパーはデザイナーとして活動し始めた1980年代後半、こうした船の設計に用いられたカーブ定規を使って、ドアハンドルのデザインをしたという。今はコンピュータでどんな曲線でも描くことはできるが、実際に定規に鉛筆を当てながら引いた線は、今でも身体で覚えていて、こうした作業が「線」に対する感覚を養ってくれたとジャスパーはいう。「見知らぬ誰かがつくった定規だけれど、うまく曲線を引くということをはるかに超える何かを教えてくれた」とも語った。
▲ 展示した定規にはジャスパーが鉛筆で目印用に書き込んだ矢印も残っていた
今年のアカデミー賞候補になった映画「her/世界でひとつの彼女」(日本では6月公開)のプロダクションデザイナーであるK.K.バレットが選んだのは、自分でつくって気に入っているトロンボーンのマウスピースとトランペットのミュートを合体させたオブジェ。なくさないように2つをくっつけて棚に置いていたところ、まるで用途があるかのようにしっくりと感じたそう。
▲ 上がトロンボーンのマウスピース、下がトランペットのミュート
コンスタンティン・グルチッチは騒音作業場で使用するイヤーマフを展示。30年前、コンスタンティンがイギリスの家具メーカーで初めて家具をつくるようになって買ったもの。丸鋸や電動ルーターを扱うときは必ず装着。ずいぶんお世話になったそうだ。これをかぶると自分のスイッチがオンになる。そんな存在だったという。「残念なことに最近はデザイナーの僕が実際に手を動かしてものをつくる機会はない。だからイヤーマフを使うこともない。でも、いつか丸鋸を使ってものをつくるときのために、今でも持っている」と言うコンスタンティン。
▲ コンスタンティン・グルチッチのイヤーマフ
今は使っていなくても20年、30年と捨てずに持っているデザイナーの思い入れのアイテム。ものを消費することの意味や、ものから教えてもらうことを考える展示だった。サローネ初日に行われたオープニングには、深澤直人、ロス・ラブグローブをはじめ、名だたるデザイナーが揃い、みな目をキラキラさせて展示に見入っていた。(文・写真/長谷川香苗)