NEWS | プロダクト
2014.03.03 11:22
本誌168号(3月1日発売)では、デザインユニットのMUTE、エイブルアート・カンパニー、福島県の3つの福祉事業所によるプロダクトブランド「botanippe(ボタニッペ)」を紹介しているが、福祉事業所発の新シリーズとして、もう1つ、「equalto(イクォルト)」を紹介したい。こちらは、昨秋のインテリアライフスタイル(IFFT)で発表されているのでご存知の方も多いと思うが、すでに全国のインテリアショップで販売が始まっている。
「equalto」を立ち上げたのは、難民を助ける会(AAR Japan)とアクセンチュア、アッシュコンセプトという活動領域の異なる3つの組織。実際の運営には、障がい者就労の中間支援を行うテミルプロジェクト内のディーセントワーク・ラボが加わり、各福祉事業所のものづくりを支えていくという。
▲ アワードの大賞に輝いた「Nuinui」は、同じものが2つとない手縫いのアクセサリー(S〜L、1,800円〜2,000円) デザイン:木﨑直子 製造:社会福祉法人緑仙会(パルいずみ)
▲ 木と紙の貯金箱「Pos」は、お金を取り出すときに、紙に穴をあけるという快感が楽しめる。貼り直し用の和紙も付く細やかな心配り(全10色、1,800円) デザイン:河本匠真、唐澤絵里 製造:社会福祉法人一寿会
そもそも経営コンサルティングやアウトソーシングで知られるアクセンチュアが、なぜ、このブランドを立ち上げたのか。同社は「Skills to Succeed」を社会貢献のテーマに掲げ、「2015年までに世界各地の25万人の人々が就職や起業のためのスキルを身に付けること」を目指しているからだ。日本では、特に、子供、若者、多様性(女性や障がい者)という3つの人材層に着目し、その活用を推し進めている。
その取り組みが、東北の復興支援に結びつき、「equalto」に発展していったわけだが、その前に、障がい者の社会参加の現状について触れておきたい。日本には、約740万人(人口比率でいうと100人中に6人弱。内訳は身体370万人、知的50万人、精神320万人)の障がいのある人たちがいるが、就労機会が少なく、収入もひじょうに少ないという課題を抱えている。驚くことに、福祉就労施設で働く人の月給は、全国平均で約1万3000円。週2日とか数時間労働というわけでなく、フルタイムで働いたとしても、経済的自立にはほど遠い収入しか得られない。
そこで、アクセンチュアはAAR Japanと協働し、福祉施設の収益改善のために新規事業開発に取り組んだ。具体的には、有名パティシエにレシピ開発や技術指導を仰いだり、料理研究家と新たな弁当をつくったりといったもので、そのなかの1つにデザインコンペ「ART CRAFT DESIGN AWARD」の開催とその商品化があった。それが、今回の「equalto」に結びついたというわけだ。
▲ 革のペンスタンド「Wavy」。一見、シンプルに見えるが、4つの仕切りと5つの底を設けるために、手間の込んだつくりになっている(6色、1,800円) デザイン:大村 卓 製造:NPO法人がんばろう会(だんでらいおん)
▲ 「Red line」。着る人とつくる人、着る人同士がつながるTシャツ。この模様には、福祉事業所のほうが「こんなに簡単で良いんですか?」と驚いたという(S〜L、3,000円) デザイン:谷本天志 製造:社会福祉法人円(まどか)
アワードの審査員を務めたアッシュコンセプトの名児耶秀美氏が、受賞作を商品にするために力を注いだ。名児耶氏は「デザイン本来の役割がこのプロジェクトにはある。ブランド名のequaltoとは、equal to、つまりみんな平等にという意味。デザインの力で障がい者のものづくりを支援したい」と語った。
第一弾商品として、アワードで大賞に輝いた手縫いのアクセサリー「Nuinui」をはじめ、木と紙の貯金箱「Pos」などの5つが、すでに全国のビームスや東京・原宿のアシストオン、池袋のセンプレデザインといった店舗で販売されている。もちろん、アッシュコンセプトのKONCENTでは、全アイテムが揃う。
大きな課題に向けて、専門の異なる企業や組織が協働してつくり上げた「equalto」が、今後、継続して発展していくことに期待したい。なお、本年度のアワードの開催は未定だ。