イギリス・ロンドン/オックスフォードへの旅
「“光”と“灯り”をつくりあげる上でのヒント」

先日、休暇でイギリスのロンドンからオックスフォードのほうへ行ってきました。イギリスにはロンドンを中心にこれまで数回行ったことがありますが、訪れるたびに街の空気が違います。建物のファサードや街並みは古くからの表情を大事にしているので変わりませんが、流行の店や注目のエリアは時代や状況を反映していて興味深く感じられました。

最初の写真は到着後すぐに、現地の友人に連れて行ってもらったレストラン「Great Queen Street」。ロンドンのホルボーンという都心にあるのですが、気取らない雰囲気で日替わりの家庭料理のようなとても温かいお店。ホッと落ち着けるのは、心地よい“暗さ”のせいもあるのかと思いました。天井にベースとなる直下に当たる光がありません。壁面のブラケットライトとキャンドルだけ。

ロンドンオリンピック後の影響も少しあるようですが、最近クリエイターたちが移ってくる地域があるそうです。そういう地域は都心よりはスローペースながら、センスのあるグローサリーや、上の写真のような北欧ぽいカフェがあったりと、これからどんどん洗練されていくような気がしました。公園の借景を目の前に、ゆっくりと流れる時間。裸のクリア電球のフィラメントがアクセントになっていて、昼間でも外光と折り合いをつけているような立ち位置です。

今回は、初めて郊外へも行きました。オックスフォードとロンドンの間、ハーレーにある素敵なコテージ「The Olde Bell」に宿泊。「エル・デコUK」の元編集長だったというデザイナー、イルゼ・クロフォードのインテリアデザインは、素朴で居心地の良い内装。客室も、ラウンジも、他のスペースも古い建物のリノベーションですが、センスがとても良い。今、人気のライフスタイル誌「KINFOLK」のまるでUK版のようにさえ思える世界観。ナチュラルで周辺の環境と共存していいます。

The Olde Bell の中にあるレストランもセンスが良く、とても美味しい。カトラリーや食器もシンプルでデザイナーがトータルディレクションしているのだと思わせます。そして、こちらのレストランも天井にはほぼ照明はなく、ブラケットライトによる間接照明とキャンドル。どうしても暗すぎる場所があると思うのですが、それが計算されているのか偶然なのか、食事をするのには支障のない、ほどよい明るさが確保されているのです。ちょっと不思議です。

各建物が敷地内いくつかに分かれていて、まるで母屋からはなれに行くように外を少し歩きます。外の道も、ポール灯のような外灯がしっかりあるのではなく、建物からこぼれてくる灯りや建物に馴染んでいるようなブラケットライトの灯りが優しく導いてくれます。

オックスフォードまで足を延ばし、学術の町を散策。可愛いマルシェや日用品、キッチンツールなどのショップもあったり、大学の町でありながら、今のトレンドも反映しているという雰囲気です。写真はアシュモリアン・ミュージアムのミュージアムカフェ。ここも天井からの直接の灯りではなく、モダンな造作による間接照明です。

日暮れのオックスフォードの街並み。少しずつ灯りが点りだします。歴史ある建物ばかりだからか、ライトアップされていても品格があります。ライトアップされていることが際立っているのではなく、街の中に光が溶け込んでいくようです。

オックスフォードでの夕食はカジュアルなフレンチビストロ。劇場が近いらしく、多くの人が観劇の前後に食事に来るような場所。年齢層もいくぶん上のような気がしますが、そういう客層でも、天井からの直接光がありません。空間の幅が広くなく、漆喰のようなマットな白壁と天井のせいか、やわらかく壁面からの照明をバウンドしていきます。活気もあって、キッチンからこぼれるスタッフ同士のフランス語のやりとりが空気感をつくっていました。

郊外の小旅行から戻り、ロンドン市内を歩きました。ドーバーストリートの店を覗いたついでに、ピカデリー近くのバーリントン・アーケードという商店街に向かいました。高級品店がほとんどで店構えも画一化されていて、ちょっと敷居が高い感じてはありますが、三角の天窓から漏れる外光が気持ちいい。三角の天窓の四隅にさりげなくスポットライトがついているところもこのアーケードのセンスだと思います。

今、ショアディッジという地域が面白いということで、友人のアテンドで行ってきました。以前からも、街中でのデザインイベントがあったり、クリエイターも多く集まっているということですが、最近は人気のコーヒーロースタリーがいくつもあったり、ドーバーストリートマーケットなどにも入っているセンスの良い日用雑貨の店もあったり。コンテナを利用したいろんなブランドのコンセプトショップなど、賑わっている場所でした。

この地域にエースホテルがあります。ニューヨークのエースホテルと同様、ラウンジはノマドワーカーたちに人気で、美味しいコーヒーやビールが気軽に飲めます。その興味ある一角がここ。キレイな銅の一本もののランプシェードでできたデスクラインランプ。シェードの表面はつや消しで、余計な光を反射せず、デスク上にやわらかく光が漏れる様子。

ロンドンを経つ朝の朝焼けです。タイトルで“ヒント”と言いましたが、その土地それぞれに特色というか個性があります。旅全体から私が気づいたのは自然の光とどう共存し、折り合いをつけて、美観を損なわずにその街が生きているかということ。照明の仕事をしてきて、改めて「環境」や「地域」「人の集まる場所」について考えます。流行の先端の店や飲食店などどんどん新しいものが生まれ・つくられていくのと、昔からの様相をそのままに人の流れや考え方の変化に“仕組み”つまり中身が更新され・進化していくという2つのスタイルがあると思います。しかし結局、みんなが好きな灯りのあり方は、意外にベーシックに「心地よさ」が追求されているのだと。いつ行っても変わってない風景にホッとしながら、どんどんセンスのよいモノや美味しいモノが生まれ、進化していることに出会えるのは幸せなことです。本当に「旅はチカラ」になるのだと思いました。(文/マックスレイ 谷田宏江)

この連載コラム「tomosu」では、照明メーカー、マックスレイのデザイン・企画部門の皆さんに、光や灯りを通して、さまざまな話題を提供いただきます。