3Dプリンティングの技術を食品に応用する試みは以前からあった。例えば、ポテトフィリング(マッシュポテト)を積層して任意の形状をつくり、それをフライにして供したり、チョコレートの積層によって特定の形をつくり出すといったものだが、それらは技術デモ的な意味合いも強かった。
しかし、今年のCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)では、ついに量産を前提(年内に商品化予定)とする製品が発表された。それが、3Dシステムズとシュガー・ラボの協業から生まれた「シェフジェット(ChefJet)」だ。
既存の3Dプリンタの方式の1つに、石膏の粉を薄く敷き詰め、固化させたい部分にのみ水に近い接着剤を噴霧するというプロセスを繰り返して積層するものがある。シェフジェットは、この石膏を粉砂糖で置き換え、水で固化させて、最終的にアルコール処理によって強度を上げるという仕組みで砂糖菓子をつくる。
シュガー・ラボを創業したのは、ケーキを焼こうとしたがオーブンがなかったため、代わりに3Dプリンタを使って「出力」することを思いついた大学生だった。おそらく、一般的なアメリカのケーキが、ほとんどアイシング(シュガーコーティング)の塊であることが幸いしたのだろう。そうでなければ、シュガー・ラボは存在していなかったかもしれない。
いずれにしても、シェフジェットはかなり複雑な造形にも対応でき、デスクトップサイズで無彩色出力のモデルが約5,000ドル、フロア設置型で着色も可能なプロモデルが約1万ドルで販売されることになっている。
今のところシェフジェットからつくり出されるのは美しい砂糖細工にすぎないが、そこに一流シェフやパティシエのアイデアが加わったときに、どのような食の宇宙が展開するのか、今から楽しみだ。
大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。