INTERVIEW | インテリア
2014.01.19 15:57
前回に続き、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科「空間メディア論」での、学生の皆さんによるインタビューシリーズ。最終回は「片山正通氏に学生が聞く/後編」です。
「わからない」を武器にする
デザインの世界に踏み出そうとしている私たちにとって必要なこととは何でしょう?
デザインする上では、デザインに関する情報量が必ずしも大事ではありません。デザインが好きで楽しいと思えることと、デザインで何かをかえてやる!という情熱が何より大切です。学生は47歳の私より知らないことがたくさんある。その若さの分“知らない怖さ”を持っているかもしれないのですが、知らないことのメリットもあります。知らないからこその大胆で型破りな行為につながり、知らないからこそ、縮こまらず遠慮なしになんで? どうして?というピュアな気持ちが生まれる。その小さな疑問や何気なく引っかかった小さな欠片から生まれた気持ちが、今後の考えの基盤になる。これこそがデザイナーという仕事だと私は思っています。
私自身「UNIQLO NEW YORK SOHO」でのユニクロの企画に携わったとき、はじめはユニクロというブランドのルールを全く把握していなかった。しかし知らないからこそ客観的に自分の感覚に素直に気持ちをぶつけ、限られた時間の中で決定事項をどんどん覆し、大胆に変更を加えた結果、市場価値を大きく上げることができたと言っていただき、実行していくことが自分自身の価値なのだと実感した仕事でした。デザイナーとして求められているのは、そこで新しい視点を提案すること。その結果、相手に対して「ノー」と言わなくてはいけないことはたくさんあります。
意見したことによって怒られても、それは仕方ない。しかしたいてい素晴らしい経営者は頭ごなしに否定せず、まず提案を聞きいてくれる。だから今、若い人たちに思うのは、逆にわからない、知らないことを武器にすべきということ。わかったふりをせずに疑問を投げかけることができるのは若いからこそで、何となく丸くおさめるよりも疑問を持ち続けることのほうが大切だと思います。
暇の怖さを知った26歳
多忙ななか時間をどうやりくりしているのですか?
1カ月に1回休みがあるかないかなので、プライベートと仕事とのバランスは悪いかもしれない。でも24時間は使いようで、常に限られた中での使い方を考えています。どんなに忙しくてもデザインは好きだから苦ではない分、家族との時間は当然あまり過ごせていないかもしれません。自分は子供たちと休日一緒に遊ぶような父親ではない。どうしても共に過ごす時間は少ないかもしれないが、自分だからこそできる教育、働く背中から生き様を見せる父親になろうと思っています。
子供が大人になってから「ああ、父親はこんなことやっていたんだな」と将来わかってくれたらいいと思うし、そのためにはどんなに辛く忙しくも仕事はやりきろうと思います。今の忙しさは求められているということでもあり、幸せなこと。26歳で会社を設立しましたが、直後にバブル崩壊。ほとんど仕事はなく、しばらく暇な時間が続きました。そのときに暇の怖さや仕事のない怖さを知り、好きなデザインで食べていくのは大変だとわかり、どんなにデザインを勉強しても知り得なかったこの数年の苦しみが、いちばんの教訓になっています。
最近、大学で教鞭をとったり海外での仕事が増えたりといちだんと忙しくなりました。自分がいない時間、会社のことをスタッフに任せることや、海外でプレゼンをするときに英語が話せない自分の代わりに語学力のあるスタッフに任せることが増え、他人の力を借りるようになって、改めてデザインは組織で回すものであって、自分ひとりでやっているわけではないと気づくことができました。だから今はバランスがとれていないけれど、会社では限られたものでなんとかしようよというスタンスで、社員と協力しています。
今の自分につながった思い入れのある仕事を教えてください
1998年にNIGO®さんと初めて仕事をしたNOWHEREですね。デビュー作といってもいいほど、初めてメディアにも大きく取り上げられた仕事でした。その頃、決まりごとに縛られたくない、自由にやりたいと思っていた時期で、ついに自由にやっていいという仕事がきたのですが、逆に「自由に」という言葉に悩ませられました。いざ「自由に」という条件を出されると、「自由に」とはあなたの全てを見せてくださいと言われているようなもので、自分の考えていた「自由」はとてもちっぽけなことに気づかされました。最終的には馬鹿にされてもいいから、駄目なことでもやってやろうという覚悟の勢いでやり、その新鮮さがたちまち話題になり注目される空間となりました。
想像を遥かに越える10年後
今興味があるもの、これから手がけてみたいものなど、目標はありますか?
やってみたいことはたくさんあります。世界でいちばんのデザイナーに近づくために、守りに入らないで常に成長し続けることや、そのために新しいことにチャレンジし続けることが目標です。求められている今は、日々自分を越えるように努力し続け、トップに近づくために自分の可能性を広げることを大切にしています。歳をとると知識や固定観念が邪魔をし、結果的に鮮度が落ちてくる。これからはそんな自分との戦いだと思う。自分のつくったもののいちばんのファンは自分。その愛情が作品の魅力にも結びついていると思う。自分のことを好きでいれて、できる!という姿勢でいることは難しいことだが、すごく重要なこと。まだまだ自分はできると思いたいし、自分の作品をかっこいい! すごい! と思っていたい。
自分のつくるものがこの程度というものになってしまったら、そこまでだと思うし、そうなれば人に伝わる作品はつくれないと思います。常に自分の可能性を広げていって、一歩一歩を大事に進んで先に行っていたい。難しいことかもしれないけれど、こういう日常によって常に目標が伸び続けていて、他にやりたいと思うようなことは、こういう地道な道を着実に歩むことによってできるのだと思います。
10年後、何をしていると思いますか?
10年後は意外とあっという間だと思います。自分が生きているかもわからない不安定で微妙なもので、だから遠い未来と考えるか、近い未来と考えるかは人によって価値観が別れます。10年後の自分も今みたいに前を向いてデザインとともに生きていたい。まだ大学で教授を続けているだろうけど、デザインというものが自分の中で商売の道具としてではなく、10年後もその先も、純粋に楽しいと本音で言えたらいいと思います。自分くらいの歳になると、10年後なんて、何をしているかは意外と想像がついてしまう。そういう意味では自分の想像を遥かに越え、想像上の10年後よりも先にいる状態で迎えられたらいいと思っています。(インタビュー・文・写真/荒木にこ、井田堅生、木村 光、永井天智)
片山正通/インテリアデザイナー、株式会社ワンダーウォール 代表、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授。1966年岡山県生まれ。2000年に株式会社ワンダーウォールを設立。コンセプトを具現化する際の自由な発想、また伝統や様式に敬意を払いつつ、現代的要素を取り入れるバランス感覚が国際的に高く評価されている。主な仕事として、ユニクロ グローバル旗艦店(NY、パリ、銀座、上海他)、PIERRE HERMÉ PARIS Aoyama、NIKE原宿、100%ChocolateCafe.、 PASS THE BATON(丸の内、表参道)、YOYOGI VILLAGE/code kurkku、THOM BROWNE. NEW YORK AOYAMA、MACKINTOSH(ロンドン、青山)、INTERSECT BY LEXUS – TOKYO、ザ リッツ カールトン香港のメインバー・OZONE、colette(パリ)など多数。
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