INTERVIEW | インテリア
2014.01.11 15:23
前回に続き、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科「空間メディア論」での、学生の皆さんによるインタビューシリーズ。第3回は片山正通氏です。
片山正通 「デザインに挑む」
原宿のNOWHEREをはじめ、ニューヨークのユニクロ、代官山のA.P.C.など代表作は数え切れない片山正通氏。 最近では、ファッションの有名ブログサイト「The Business of Fashion」による「The People Shaping the Global Fashion Industry(世界のファッション業界を形成する500人)」のひとりにも選ばれている。そんな片山氏の、デザイナーとして、また、大学教授としての素顔に迫る。
必然的な偶然
まず、インテリアデザインの世界に入ったきっかけを教えてください。
偶然ですね。ただ、単なる偶然ではなく、必然的な偶然だったのかもしれないと思っています。 今思えば、きっかけは2つあって、まず1つ目に、サブカルチャーが好きだったこと。青春時代、ファッションや音楽、それに関わるものや空間が大好きでした。当時はそれらをデザインとして認識していたわけではなく、勉強は興味が持てなく得意ではなかったので、他のことをよりもアンテナを高く張り積極的に吸収しようとしていました。その頃に少しずつデザインについて学んでいたのかもしれない。当時考えたことや感じたことが今につながっていると実感していますね。
2つ目は、父親が家具屋を営んでいたこと。勉強をしない自分にしびれをきらした父から、跡を継ぐことを提案されたことがデザインに踏み出すきっかけでした。地元の岡山から大阪へ出て後継ぎになるために専門学校へ通い、そこでインテリアデザインに”偶然”出会いました。。インテリアデザインはブティック、ショップ、クラブなどサブカルチャーと深くつながっていて、自分が好きな世界とこれからたまたまやろうとしている世界がものすごく近いところにあるのだと気づき、今まで以上にデザインにのめり込んだのを覚えています。
昔から将来就きたい仕事としてデザインを意識していたわけではなかったし、強烈なきっかけがあって志したわけでもなかったのですが、気持ちに忠実に思うままに決断し、そしてある程度流されて過ごしていたら、いつの間にかデザインの道を歩いていた。ただ、今手がけている仕事のようにやりがいのある仕事、誰かが感動してくれる仕事をしたいとずっと思っていましたね。そう考えると、矛盾しているようですが、無意識のうちに自らこちらの方向へ進みたいと暗示をかけて、今に結びついているようにも感じます。
片山先生にとってデザインとはなんですか?
自分にとってデザインとは、朝から晩までずっと考えていたいくらい大好きなものです。デザインを考えていて気づいたら夜が明けていた、というぐらい熱中できるとても楽しいもので、これからデザインを生業にする人には、まずデザインは楽しいものだと知ってほしい。むしろ心からの楽しさを見出せないとやっていけないと思います。 また、デザインは“お金”という概念が成立する前からある、歴史ある高尚なもの。そんなものに携わっているという自覚とプライドを持ってほしいですね。
「デザインを仕事だと思っていない」と言うと大袈裟ですが、遊びより何よりデザインをしているときがいちばん楽しい。仕事というよりも好きなことをしているという意識が強いです。仕事だからと割り切るようなことはできないですし、 常に考え、常に最善を尽くしたいと思っており、偶然出会ったデザインが今、自分のライフワークになっていることに運命を感じています。
バブルがはじけて約20年。不況が続く世の中の影響か、アイデアや夢も疲れているように見える今、デザインやクリエイティブには無限の夢があります。その持っている力をもっと信じていいと思うし、デザインをしている人には誰よりも希望を持ってほしい。逆に今の状況を打開する起爆剤にもデザインはなり得ると思います。
答えのない人生、答えのないデザイン
お話を聞いていて感じたのですが、人生においていくつか大きな決断を下しながら今のキャリアに結びついているように思います。そのような選択をされるとき、何が決め手になるのでしょうか?
答えはないものだから、どちらに行けば良いかは常にわからないですね。でも正解がわからないからと言って、迷ってはいられないし、当たり前のことではあるけれど、今という時間は二度と巡って来ない。複数の道を選ぶことはできない。その上で重視するのは、自分が面白いと思えるか、欲に流されずに自分の意志で決めたか、自分にとって将来的にどちらが良い道かということですね。もし間違えた方向に向かってしまったとしても、自分の感覚に正直に決めて進んだ道ならば、戻ってやり直すことができる。
仕事の依頼を受けたとき、あまりの仕事の大きさに自分や自分の会社に務まるのか不安に思うことがあります。でも相手は片山ならできる!と思って依頼してくれているわけだから、思い切ってチャレンジする。自信があるからやるのではなく、やりたいのならば無理してでもやる、という心意気でやっています。チャンスは2度と巡ってこないので逃してはいけない。決めるまでに葛藤があったとしても、1度自分の意志で選んだことには責任を持ち、全うすることが大切です。
はじめから100%やりたいと思う仕事ばかりではない。3年前に大学教授の依頼を受けたときも、忙しい日々のなかで、仕事と教授、どちらも半端になってしまうのでは?と思い悩みましたが、同じ時間を過ごすならよりよい時間にしようと、今ではお金には換えられない出会いや縁を大切に大学に取り組んでいます。
また、簡単なほうを選ばず、難しいほうを選ぶことも成功の秘訣ですね。大変な道を選ぶのは一時的には辛く苦しく、失敗して馬鹿にされたり、どうしようもないくらい落ち込んだりするかもしれません。しかし、山登りの頂上で見える風景が美しいように、疲れたカラカラの身体で飲む水の一口目がものすごく美味しいように、大変なことを積み重ねてきた先にあるのは、その人にしか見えない、その人独自の景色ですよね? そういう経験を突破した人は強い。大変な経験は人を成長させると思います。
“芸術”という答えが明快ではない世界で、教授として生徒に何を教えようと思っていますか?
大学では生徒にデザインのノウハウを教えようとは考えていません。むしろ「デザインに答えはない」ということを教えたい。そして何よりこれからのデザインを担う生徒たちに、好きなこと、やりたいことを見つけるきっかけに自分がなりたいと思っています。僕が企画とホストをやっている「instigater」という課外講座や、片山ゼミでの特別講義で積極的に各分野で活躍しているクリエイターの方々を呼んでいるのは、そういう思いからです。その道を極めた人たちのさまざまな話を聞き、いろいろなものを感じて化学反応を起こしてほしい。また、好きなことを見つけるきっかけにして欲しい。いつか自分のオリジナリティを確立してほしいと考えています。
答えのないデザインの中にルールは存在しません。ルールは自分でつくっていくもので、何かしたいときにどう行動するかは自分なりのルールに従って決めなければいけない。自分なりのルールや自分らしいパターンを確立する上で、当然、自分やデザイン、それに関わる何に対しても考えることが必要になります。考えるとき何となく曖昧に丸くおさめるのではなく、自分の考えにこだわりを持つことで自分の目指すべき点、ある種のこだわり、パターンが生まれる。同じものを見て、同じものを食べて、同じ匂いを嗅いで、同じ過程を歩んできた人間はひとりとしていない。だから、価値観やルールはみんな同じじゃなくていいし、むしろ違って当然。その違いから面白さを見出せるのがデザインの醍醐味だと思っています。(インタビュー・文・写真/荒木にこ、井田堅生、木村 光、永井天智)
——–後編に続きます。
片山正通/インテリアデザイナー、株式会社ワンダーウォール 代表、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授。1966年岡山県生まれ。2000年に株式会社ワンダーウォールを設立。コンセプトを具現化する際の自由な発想、また伝統や様式に敬意を払いつつ、現代的要素を取り入れるバランス感覚が国際的に高く評価されている。主な仕事として、ユニクロ グローバル旗艦店(NY、パリ、銀座、上海他)、PIERRE HERMÉ PARIS Aoyama、NIKE原宿、100%ChocolateCafe.、 PASS THE BATON(丸の内、表参道)、YOYOGI VILLAGE/code kurkku、THOM BROWNE. NEW YORK AOYAMA、MACKINTOSH(ロンドン、青山)、INTERSECT BY LEXUS – TOKYO、ザ リッツ カールトン香港のメインバー・OZONE、colette(パリ)など多数。
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