建築家 千葉学 X SACLAB
「住んでいる人が関わることででき上がるフェンス」

三協アルミが2013年春からスタートさせた「SACLAB(Sankyo Alumi Creative Labolatory)」は、国内外で活躍する建築家とともに新しい住空間を考えるプロジェクトで、建築家の視点を取り入れた新たなアルミ建材の開発を目指しています。初年度は5組の建築家とともに、「新しい境界」とエクステリアデザインについて考察。去る10月には、東京・六本木のアクシスビル地下1階シンポジアにて展覧会が開催されました。

この連載では、5組それぞれのコンセプトを紹介していきます。第1回は千葉 学さんによる「住んでいる人が関わることででき上がるフェンス」です。

千葉 学(東京大学大学院/千葉学建築計画事務所)
「住んでいる人が関わることででき上がるフェンス」

子供の頃、近所の家の塀の上に並ぶ牛乳瓶を見ることが、朝の日課の1つだった。毎朝配達されてくる牛乳瓶の本数を数え、その家の生活を少しだけ想像してみる、それは密やかな楽しみであったし、毎日同じように運ばれてくる牛乳瓶に、不思議と安堵してもいた。そして、そんな風景が重なり合う街は子供の目にもいきいきと魅力的に見えたのだ。

設計を仕事にし始めたころ、塀の上に並ぶ牛乳瓶の風景は既になくなり、敷地境界上を走るさまざまな素材の「塀」は、自分の土地を明示するだけのものになっていた。だから自分が設計する住宅に「塀はつくらない」、そう決めたのである。敷地が直接繋がっていくことで、塀の上の牛乳瓶の役割を少しでも担えるのではないかと思ったからだ。それは僕にとってとても大切な街へのメッセージでもあった。

「黒の家」(東京都大田区田園調布) Photo by Nacasa & Partners. Inc

初めて田園調布に設計した「黒の家」、そして最近設計した「富ヶ谷の家」、中央林間に設計した「屋根裏の家」、そのいずれにも、塀はつくっていない。しかし改めてその周辺の住宅地を見てみると、そこには実にたくさんの「塀」が巡っていることに気づかされる。そしてその総延長は、今回の展示で示した地図の範囲だけでも、田園調布で1,135m、中央林間で967m、そして富ヶ谷に至っては、1,416mにも及ぶ。

「富ヶ谷の家」(東京都渋谷区富ヶ谷) Photo by Kenichi Suzuki

「屋根裏の家」(神奈川県大和市中央林間) Photo by Masao Nishikawa

街を縦横無尽に走るこれらの塀、それらがかつての牛乳瓶が置かれた塀のように、その家の生活が溢れ出す受け皿に変わるのならば、街はまたいきいきと魅力的なものになるのではないか。SACLABの計画で改めてそう考えた。住む人が思い思いに植木を並べたり、小鳥の餌を置いたり、庭いじりの道具を置いたりと、自由に楽しむことのできる塀、そんな関わり方のきっかけになる塀をデザインしようと考えた。

千葉 学/1960年東京都生まれ。85年東京大学工学部建築学科卒業。87年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。87~93年日本設計勤務。93~2001年ファクターエヌアソシエイツ共同主宰。93~96年東京大学工学部建築学科キャンパス計画室助手。98~01年東京大学工学部建築学科安藤研究室助手。01年千葉学建築計画事務所設立。01~13年東京大学大学院工学系研究科准教授。09~10年スイス連邦工科大学客員教授。13年東京大学大学院工学系研究科教授。
http://www.chibamanabu.co.jp

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