vol. 41 ブラック&デッカー
「18Vリチウム ハサミ型チェーンソー LLP18」

紙製品を切断するハンドツールとしては、大まかにカッター(ナイフ)とハサミの2つの選択肢がある。

カッターは、重ねた複数枚の紙を手首や腕の力を使って直線裁ちしたり、先端部を指先で操って細かな切り抜きなどをするのに適している。慣れれば手軽で応用範囲も広いが、傷ついても良い下敷き的なものが必要で、うっかり怪我をする危険性も高い。

一方でハサミは、握る動作そのもので切断するため、力のかけ具合や切る方向のコントロールが容易であり、下敷きなどなしに、比較的安全に自由な裁断が可能だ。

切り絵師がカッターや小刀、切り紙芸人がハサミを使うのも、異なる両者の特性がそれぞれの作業に適しているからと言える。

これまで、丸太などの切断に使われるチェーンソーの世界には、カッター型の製品しか存在しなかった。そのため、太い木の幹を切る場合などには制約が少なく便利だが、倒木は刃先が地面に接しないように持ち上げて固定しなければならず、不意に刃先が跳ね上がる危険のある小枝のまとめ切りなどには細心の注意が求められた。

こうした問題を解決すべく、小径の木材のカットに特化して初心者にも扱いやすいチェーンソーの開発に挑んだ世界最大の電動工具メーカー、ブラック&デッカーが着目したのは、ハサミの持つメリットだった。

「18Vリチウム ハサミ型チェーンソー LLP18」(36,750円)は見ての通りハサミのメカニズムをチェーンソーと融合することで、切断中に刃先が対象物以外に触れたり、不用意に跳ねたりする危険性を大幅に減らすことに成功した。また、2つのグリップハンドルによって作業中の本体をしっかり保持でき、それぞれのハンドルに設けられたスイッチを同時に握らないと動作しない設計によって、安全性がさらに高まっている。

これも、製品ジャンルの常識にとらわれず、目的とするユーザー体験から導き出した優れたデザインの一例だ。

ただ、個人的には「18Vリチウム ハサミ型チェーンソー」という製品名にやや違和感を覚えるのも事実。仕様をそのまま名称にしたため、わかりやすいと言えばその通りなのだが、せっかく初心者にも優しい製品であるにもかかわらず、やや硬い印象を受ける点は否めない。

商標登録などの関係かもしれないが、ボディの一部には愛称と思われる「Alligator(アリゲーター)」の文字とワニのイラストのあるプレートもついているので、こちらをメイン、または併記して製品イメージを浸透させる方法もありそうだ。デザインや機能性がユニークなだけに、少し余計な心配までしてしまう製品なのである。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。