REPORT | 講演会・ワークショップ
2013.10.09 14:47
次世代を担うクリエイターを対象とした国際デザインコンペティションとして、昨年創設された「LEXUS DESIGN AWARD」。同アワードは、未来視点に立った心を動かすデザインのあり方を提案する次世代を担うクリエイターのためのコンペティション。この活動を通してLEXUSは、新たな才能の発掘・支援・育成と未来を担う人々にデザインの重要性を伝え続けることを目指している。72カ国から参加者が集まった第1回に続き、今年も開催。入賞の12作品はミラノデザインウィーク2014で展示され、受賞クリエイターは現地に招待される。そのうちの2作品はプロトタイプ制作費として最大500万円の支援が受けられ、世界を代表するクリエイターをメンターとして自らのアイデアを具現化することができる。
第2回のテーマは「CURIOSITY(好奇心)」で、10月15日まで応募を受け付けている。9月29日には同アワードの一環として、ワークショップイベント「LEXUS DESIGNER'S COLLEGE」が開催された。そのときの模様をレポートでお届けする。
会場は8月末にオープンしたばかりの、LEXUSの情報発信拠点「INTERSECT BY LEXUS」。表参道駅から歩いて3分ほど。「都市とつながり、人と人、人とクルマが交わる」をテーマに、デザインやアート、ファッション、カルチャーなどを通じてLEXUSが考えるライフスタイルをさまざまなかたちで体験できるスペースとして誕生した。入ってすぐの1階がカフェ、その奥にはGARAGEと称したエキシビションスペースなどがあり、「LEXUS DESIGNER'S COLLEGE」は、クリエイターによるトークセッションやワークショップなどのイベントスペースとなる2階のビストロで開催された。今年度の「LEXUS DESIGN AWARD」のテーマである「CURIOSITY」を掘り下げるべく、インタラクティブ工作ツール「SWITCH」を使ったワークショップを前に、講師を務めるゲルフリート・ストッカー氏(アルス・エレクロニカ アーティスティック・ディレクター)と、ゲストスピーカーとして、小説家の平野啓一郎氏によるトークセッションが行われた。
ストッカー氏と平野氏の共通項
ストッカー氏はアルス・エレクトロニカについて紹介し、「コンピューターをはじめ技術革新が進む今、技術と社会がどのように関わるかが重要となる。社会のためのデザインが必要で、それを考えるのがデザイナー、アーティストの役割」と語る。そうしたアルス・エレクトロニカがテーマとして扱うメディアアートに刺激を受けて生まれたのが、平野氏の2004年の作品である短編小説『バベルのコンピューター』だという。作品誕生の背景には「近代小説に未来はない」という文学界における問題があった。
「当時、文学の世界では近代小説は終わったと言われていました。現代作家にとってライバルは常に過去の作家と作品であり、あとは過去の作品を引用したパロディしかないのではと議論されていたんです。とはいえ、過去の作品のパロディだけで生き残っていけるとは思えない。次第に、重要なのは文学以外との競争じゃないかと考えるようになり、注目したものが現代アートとコンピューターによるテクノロジーでした。その頃、多くの人がインターネットを駆使するようになり、それはグーテンベルクによる印刷機の登場と同じくらい、世界が根本的に変わるという印象があったんです。SFの世界では早くからテクノロジーと文学の問題について語られていましたが、僕がいるような文学の世界でこの問題に着目している人はひじょうに少なかった。そんな中で、いろいろとメディアアートに関連することを調べていたときに、アルス・エレクトロニカのことを知りました。僕がイメージしていたテクノロジーと人間との問題をひじょうに先鋭的に追求した場所で、特に興味を持ったのが身体性との関連。現代社会で都市生活を営んでいるときの身体性を考えたとき、自然への解放ではなくテクノロジーが身体にどう関わっているか考え直す必要があると思いました」(平野氏)。
アーティストとデザイナーの違いとは?
さらに、ストッカー氏は、平野氏の2010年の作品『かたちだけの愛』における、人間の足と義足の違い、デザインの奥深さについても言及。義足をツールとしてだけでなく、アートとしての可能性を見出していることが魅力的だと語る。「身体が持っている重層的な意味からすると、足は歩くためだけでないんです。例えば、子供にとってみれば大人の足は抱きつく場所かもしれません。女性がミニスカートをはけば、異性の心をくすぐることもありますよね。けれども、義足は歩くことに特化されている一面があり、本物の足よりも美しいとか、触れてみたいと思うような歩く以外の機能を付加した足があってもいいのではないかと考えました」。
そんな風に考えるデザイナーと足をなくした女性が出会い、恋に落ちるという物語。「道具があまり合目的になりすぎると、身体そのものの活動を保守的にしてしまう。身体が知らなかったものまでもが含まれているほうが魅力的で、そこがアートとデザインが接点を持つ場所なんじゃないかと考えました」(平野氏)。
ストッカー氏も「アートとデザインの違いよりも、どれだけ共通性があるかが大事」と語る。「アーティストというのがどういう人かを考えるよりも、彼らは何ができるのか、どんな貢献ができるかを考えたほうが建設的であり、社会全体で見直さなければならない時期でもあると思う。デザイナーも自分のアーティスティックな部分を認めてあげるべき。ソリューションを考えることが仕事ではありますが、制限のない自由な発想を持つことが重要だと思う」(ストッカー氏)。
ブレイクスルーするうえで心掛けていることは「他者と積極的に混ざり合うこと。これまでも、混ざり合ったことで結果的に意味のなかったこともあれば、それによって変わったこともある。純粋な自分を守ろうとすると、どんどん保守的になってしまう」と平野氏。また、今年度の「LEXUS DESIGN AWARD」のテーマである「CURIOSITY」については、「わからないことをストレスに感じるか、面白いと思うか。文学は、例えば変な人と出会ったとき、なんでこの人は変なんだろうと思った瞬間、何かが始まるジャンルでもある。もともと、好奇心がないと難しいんです。そういう人間だから小説家になったのか、小説家だからそうなのかはわからないけど(笑)。わからないことを面白がる、それが僕にとっての好奇心でもあります」。(平野氏)。
いいデザイナーになろうとせず、好奇心をかき立てるトピックスを探す
話は尽きぬ中、トークセッションは終了。休憩の後、第二部のワークショップが始まった。
今回、ワークショップで使用したのは、アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボとエレキット社のコラボレーションで生まれたインタラクティブ工作ツール「SWITCH」。人感センサーによって絵がくるっと変化する仕組みで、「Escape from your ida」のテーマのもと、参加者はそれぞれ2つのビジュアルを制作する。
「イノベーティブになるうえで、大きな障壁は自分のベストアイデア。重要なのは自分自身の期待値からのブレイクスルー。アイデアを見直す、いろいろな方向性から考えることが必要です。この作品が置かれる場所も想定しながら考えていきましょう」(ストッカー氏)。
制作時間は、約1時間。ストッカー氏からアドバイスを受けたり、隣の人と相談しながら作業を進めていく。参加者は25名。完成した人からプレゼンをし、ストッカー氏による講評へと続く。
「今回、自由な発想のデザインが数々生まれました。デザイナーでありながらもアーティスト的な自由な発想ができたからこそだと思います。それは、こうしたワークショップのメリットの1つ。参加できなかった方も、自分がいいデザイナーになろうとするのではなく、純粋に好奇心をかき立てるトピックスを探してみてください。コンペでは、人が想像できないようなものをつくろうと考えますよね。それはみんな同じ。だからこそ、難しく考え過ぎずないことが重要です」。(文/西山 薫)
「LEXUS DESIGN AWARD 2014」※募集は締切ました。
募集期間:2013年8月1日(木)〜2013年10月15日(火)
テ ー マ:CURIOSITY(好奇心)
審査基準:LEXUSの考える“DESIGN”に対する、深い理解とその解釈の独自性
課題に対する着眼点とソリューションの独創性
審 査 員:パオラ・アントネッリ、アリック・チェン、伊東豊雄、パーギット・ローマン、
アリス・ローソーン、福市得雄
メンター:アーサー・ファン、ロビン・ハニキー
賞典:
・入賞作品12作品のクリエイターをミラノデザインウィーク2014に招待 ※
・その内2作品には、受賞作のプロトタイプ制作費として最大500万円を支援
・担当メンターとのセッションを通じて、2014年1月〜3月の間で、受賞作のプロトタイプを制作
・2014年4月にミラノデザインウィークのレクサスブース、“Lexus Design Amazing2014”で
2点のプロトタイプ作品、並びに入賞作10点のパネルを展示
※個人名での応募の場合には応募者本人1名、グループでの応募の場合は最大2名まで招待
※LEXUSでは、「LEXUS Design Award」「LEXUS Short Films」「INTERSECT BY LEXUS」など、さまざまな活動を通して、想像を超える感動の提供やデザインを通じた豊かな社会づくりへの貢献を目指しています。
「LEXUS DESIGN AWARD 2014」公式ホームページはこちら