「LEXUS DESIGN AWARD 2014」開催/2013年度受賞者
「五十嵐 瞳氏」インタビュー

今年も開催される「LEXUS DESIGN AWARD」は、次世代を担うクリエイターを対象とした国際デザインコンペティション。LEXUSでは、“デザイン”という言葉を、単に造形だけを意味するのではなく、問題解決のプロセスであり、豊かな社会を創造し、よりよい社会や未来をつくるためのソリューションと捉えている。本アワードでは、世界中のクリエイターに自らのアイデアを具現化し発表する機会を提供することで、クリエイターを育成するとともに、豊かな未来づくりへの貢献を目指しているという。今年の募集テーマは「Curiosity(好奇心)」。9月29日には、LEXUS DESIGN AWARDのオリエンテーションを兼ねたワークショップ「DESIGNER'S COLLEGE」も開催される。

入賞作品は、ミラノデザインウィーク2014で展示され、そのうち2作品の受賞者は、世界を代表するクリエイターをメンターに迎え、自らのアイデアをプロトタイプとして具現化することができる。

ここでは、昨年、石上純也氏によるメンタリング作品としてプロトタイプを制作した五十嵐 瞳さんに、LEXUS DESIGN AWARDに応募したきっかけ、作品「Making porcelain With an ORIGAMI」について、またメンタリングを受けての作品制作やミラノでの展示など、受賞後の体験について語ってもらった。
 

応募のきっかけ
 
LEXUS DESIGN AWARDについて知ったのは、2012年の12月中旬。大学4年で卒業制作の講評が終わり、学生生活の最後にコンペに応募してみたいと考えていたとき、偶然巡り会ったのが、LEXUS DESIGN AWARDでした。いくつか気になるコンペはありましたが、その中でLEXUS DESIGN AWARDに惹かれた理由は、審査員が蒼々たるメンバーであったのと、運が良ければミラノデザインウィークで展示できるということです。それに加え、「Motion」という応募テーマが卒業制作に向けて研究していた「紙の型で磁器を制作する」という自分の作品と重なる部分があったので、自分の作品を「Motion」という新たな観点からとらえ直し応募に至りました。

「Making porcelain With an ORIGAMI」という作品が誕生した背景

大学ではプロダクトデザインを学んでいました。家電や車といった工業製品よりも、工芸的なものに興味があり、地域に根差した伝統的な工芸に携わることで、工業製品は新たな価値を見いだせるのではないかという思いがありました。その新たな価値のひとつに「個体差」があると考えました。そうした中で、当初は磁器に限定せず、生産ラインに「個体差」の考えをどのように組み込むかという研究をしていたのです。そこでキーワードとなったのは「型」です。外枠がしっかりして、個体差を生み出せるものとして、もともと興味があった磁器の型を工夫することで研究を進めていきました。

紙で型をつくるというアイデアは、ずいぶん後になってから出てきたものです。最初は石膏型にノイズとなるような素材、例えば砂やスポンジを混ぜてみたり、木型でつくってみたり、いろいろと挑戦したのですが、うまくいかず。失敗の理由を考える過程で、紙だけで型をつくる製法へとつながっていったのです。紙でつくるメリットは、型自体が折り紙のように加工がしやすく、制作時間も短縮できる点です。さらに、型を焼き切ってしまうので、従来にはない薄さの陶器をつくることができるという新たな特徴も生まれました。


昨年の募集テーマ、「Motion」と作品の関連性について

この作品には3つの「Motion」があると考えています。1つ目は、紙の型で磁器を制作しているので、一般的な石膏型よりもフィジカルに形が動くという意味でのMotion。2つ目は、磁器と紙の産地が一緒にモノをつくることで、何か新しい動きが生まれるという社会的な意味でのMotion。3つ目は、素材特性が動くという意味でのMotion。今までにない薄さの表現は、見た目の新しさだけでなく、何か技法に付随した特徴があるのではないかと考えています。これはまだ研究中です。こうした3つのMotionをもとに、当初は建築物として提案しました。この技法による磁器を建材として活用できないかと考えたのです。複雑な形状や個体差のあるもので家や街並みがつくれたら、という提案をさせていただきました。

受賞が決まったときの感想

ちょうど運転免許を取りに地方に行っていたときに連絡をもらい、慌てて家に帰りました。石上さんとスカイプでの面接があって、メンタリング作品に決まったと言われたので、とにかく慌ただしかった(笑)。喜びよりも驚きのほうが大きかったです。

メンタリングを受けて

プロトタイプをつくる段階で、建材となるような大きな磁器を焼くためには相応の窯が必要なことや、大量の泥を支えるだけの紙の強度など、いろいろと問題が出てきました。私がこの研究で大事にしてきたことは、テープや他の補強材を使用せず紙だけで型をつくるということです。補強するのであれば、もっと他に適した技法があると思ったのです。紙の型を樹脂や鉄骨などで補強するのは、目指してきたことと違うと考えました。薄さと繊細さ、自然なゆがみが生まれることが特徴なのだと気づいたのです。そうであれば、大きなものだけでなく、もっと手に収まるような大きさで、その表現を最大に生かせる形を探るべきなのだと思い、作品の方向性を変えていきました。

LEXUS DESIGN AWARDの参加によって学べたこと

石上さんのメンタリングを通じて、自分がこの作品において何を大事にしているのか、自分の考えを明確にする作業ができたことは、とても良かったと思います。作品を人に見せるという表現の部分もとても勉強になりました。ミラノデザインウィークでの展示方法では、薄くて儚げな作品の特徴が存分に伝わることを第一に考えようとアドバイスをいただき、見た瞬間、「いいね!」と感じてもらえるような空間として美しいものを目指しました。ミラノでは、真っ白な空間に、紙をしわくしゃにした状態から徐々に折りを加えていくことで構造的強度を持ったオブジェクトに変化していくさまを表現しました。会場では、作品を見た人たちが驚いたり感動したりする姿が見られて、素直に嬉しかったです。海外の方に直接見ていただける機会など、なかなかありませんよね。本当に貴重な時間を過ごすことができました。

今後について

将来的には工芸の産地に関わることで、何か新しい動きをつくれたらいいなと思っています。今回、信楽焼の窯元の方々に手伝っていただいたのですが、イメージどおりに仕上げてもらうための指示の仕方など、最初は戸惑うことも多かったのですが、とても勉強になりました。産業として成り立たせる上で職人の方々とのコミュニケーションは、1つの鍵であることも実感できました。伝統工芸を産業として成り立たせていくために、1回だけの企画で終わるのではなく、サイクルしていけるような仕組み、ものの背景にある部分までを考えていけるデザイナーとなれるように、日々努力したいです。
(インタビュー・文/西山 薫)


Hitomi Igarashi works

五十嵐 瞳
2013年 多摩美術大学 美術学部 生産デザイン プロダクトデザイン専攻 卒業
現在は鞄メーカーに就職してデザインの仕事を行っている。

「LEXUS DESIGN AWARD 2014 DESIGNER'S COLLEGE」について

本アワードのオリエンテーション「DESIGNER'S COLLEGE」には、ゲストとしてアーティストのゲルフリート・ストッカーと作家の平野啓一郎氏が参加。クリエイションのきっかけとなる発想の原点や、参加者各々の「Curiosity(好奇心)」を探るための、インタラクティブ工作ツールを用いたワークショップを開催予定。

[ファシリテーター/レクチャラー]
ゲルフリート・ストッカー(アルス・エレクトロニカ アーティスティックディレクター)
世界一のメディアアートの祭典であるアルス・エレクトロニカフェスティバルのアーティスティック・ディレクターを務める。メディアアートの世界的権威として知られ、アート、デザイン、コミュニティデザインなど、領域を超えた次世代型クリエイションの牽引者。


©松蔭浩之

[ゲスト]
平野啓一郎(小説家)
1975年愛知県生。北九州出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書は『葬送』『滴り落ちる時計たちの波紋』『決壊』『ド-ン』『かたちだけの愛』『モノローグ(エッセイ集)』『ディアローグ(対談集)』など。アートやデザインへ知識も深く、近著では、新書『私とは何か「個人」から「分人」へ』、長篇小説『空白を満たしなさい』などで「分人主義」を唱え、人と社会との関わりについて独自の考察を著している。

「DESIGNER'S COLLEGE」
日時:2013年9月29日(日) 10:00〜14:00(受付 9:30〜)
会場:INTERSECT BY LEXUS 2階 
東京都港区南青山4−21−26 RUELLE青山A-Wing
登壇者:[ファシリテーター/レクチャラー]ゲルフリート・ストッカー(アルス・エレクトロニカ アーティスティックディレクター)
[ゲスト]平野啓一郎(小説家)
定員:25名(応募は締切ました)

「LEXUS DESIGN AWARD 2014」
募集期間:2013年8月1日(木)〜2013年10月15日(火)
テーマ:CURIOSITY(好奇心)
審査基準:LEXUSの考える“DESIGN”に対する、深い理解とその解釈の独自性
     課題に対する着眼点とソリューションの独創性
審査員:パオラ・アントネッリ、アリック・チェン、伊藤豊雄、パーギット・ローマン、アリス・ローソーン、福市得雄
メンター:アーサー・ファン、ロビン・ハニキー
賞典:
・入賞作品12作品のクリエイターをミラノデザインウィーク2014に招待 ※
・その内2作品には、受賞作のプロトタイプ制作費として最大500万円を支援  
・担当メンターとのセッションを通じて、2014年1月〜3月の間で、受賞作のプロトタイプを制作
・2014年4月にミラノデザインウィークのレクサスブース、“Lexus Design Amazing2014”で2点のプロトタイプ作品、並びに入賞作10点のパネルを展示

※個人名での応募の場合には応募者本人1名、グループでの応募の場合は最大2名まで招待

「LEXUS DESIGN AWARD 2014」公式ホームページはこちら