アルテックのデザインディレクター、ヴィッレ・コッコネン氏インタビュー

2006年にアルテックに加わり、09年にはトム・ディクソン氏の後を継いでデザインディレクターに就任したヴィッレ・コッコネン氏。以来、坂 茂氏やUPM社とリサイクル素材を用いたパビリオンを制作して注目を集めたり、坂氏と「10ユニットシステム」を開発するなど、現在のアルテックのイメージを築き上げたキーパーソンである。今夏、アルテック東京オフィスで話を聞いた。

▲ 2007年のミラノ国際家具見本市で初めて披露した、坂 茂氏とUPM社との協業によるパビリオン ©Artek


外部デザイナーとの協業の仕方


——現在のコッコネンさんのお仕事内容について、教えてもらえますか?

中心となるクリエイティブワークは、製品をつくり上げていく全過程の監督。例えば、商品説明のフォントであったり、パッケージであったり、グラフィックを含めたすべてのプロセスに関わります。また、外部デザイナーとのコラボレーションのときには、特定の素材について一緒に研究することもあります。そして何より、日々、変化している人々の暮らし方や働き方について考え、そこから新しいニーズを探っていくことが重要です。外部デザイナーとのコラボレーションでは、その変化を捉えて、今後求められるものは何かをともに探っていく。そのいちばん最初の段階が最も重要だと考えています。


——外部デザイナーとコラボレーションするとき、相手に渡すブリーフはどのようなものですか。使用する技術や素材、例えば屋外で使うベンチといった具合に用途をあらかじめ決めて依頼するメーカーもあれば、比較的フリーな場合もあると聞きます。

まず、今、世界で何が起こっていて、何が必要かということを話し合うことからスタートします。そのなかから、例えば、オフィスで使われている家具で家でも使えるものがあるといいとか、現在はアルミを使用しているが別のものに転換できるとか、話し合いを通してさまざまな可能性を探っていきます。逆を言えば、アルテックが、デザイナーから提案されたデザインをそのまま受け入れることはありません。アイデアの段階から一緒に探っていくことが重要です。


——お互いの考えや意思を伝えるとき、それは対話を通じてですか? 写真やスケッチといったビジュアルをできるだけ用いたりするのでしょうか。

いつもチャレンジなのですが、言葉で伝えます。デザイナーが興味を持つようなたとえ、「BMWのドアを閉めたときの音」とか「古いカメラを持ったときに手に感じる心地よい重さ」といったような表現をします。けれど、全体に言葉は少ないですね。

コラボレーションの相手には、最初の打ち合わせのときからアイデアを広げていってほしいので、形や素材といった限られた話はいっさいしません。そのベースとして、テクノロジーに長けているとか建築に造詣が深いなど、プロジェクトに合ったデザイナーを探し起用する、ということも大切です。

▲ 坂 茂氏のデザインによる「10ユニットシステム」 ©Artek


MITで物理学を学び、光を追究する

▲ 2010年発表のコッコネン氏のデザインによる照明シリーズ「ホワイト・コレクション」。「ブライトホワイト1」、フロアランプであり壁掛けも可能な「ホワイト2」、ペンダントランプ「ホワイト3」、テーブルランプ「ホワイト4」から成る。日本では未発売 ©Artek


——インハウスデザイナーは、現在、何名いらっしゃいますか。

1名のグラフィックデザイナーを入れ、自分も含めて5名です。


——コッコネンさんはデザイナーであり、デザインディレクターでもありますが、2つの役割は違うと思います。本音の部分では、デザイナーとして、もっとたくさんの製品を生み出したくはないですか。

デザインディレクターとして良い経験をしています。多くのデザイナーが知らないような工場での製造方法や販売といったさまざまな工程を学べるので、アルテックでの7年間はひじょうに貴重な機会になっています。

私は、建築と工業デザインの勉強をしましたが、今のようにリサーチ中心の仕事をしているうちに、さらに厳しい目でモノを見るようになりました。4つの脚に座面の付いた椅子をつくる、というようなことを見ているのではなく、大気や光といったものに注目するようになったのです。今、MITで物理学を学んでいる最中です。

例えば、光が人に与える影響とか、大気における光波について、赤外線についてなど、光学的なことに興味があります。もっと具体的に言うと、光と大気が生み出す人の目に見える色について、感じる雰囲気について。なぜ空は青いのか、でも雲はなぜ白いのか。煙はなぜグレーなのか、でもバーではなぜ黄色に見えるのか。月から見るサンセットは青いらしいが、地球から見るとオレンジになる、それはなぜなのか。実際、LED、白熱灯、蛍光灯は、光学的には異なる光です。しかし、私たちはすべて明かりとして認識する。そういうことが大変興味深いのです。

▲ 太陽の光に近づけることで、生体リズムを適正化するというライトセラピー効果のあるテーブルランプ「ブライトホワイト1」。年間を通じて陽光を十分に浴びることの難しい地域で発達し、癒しの効果も期待できる ©Artek


——人が感じる明かりと光学的な視点の間を探っていらっしゃるということでしょうか。

私が手がけ、2010年に発表した照明シリーズ「ホワイト・コレクション」のうち、「ブライトホワイト1」では、シェードにプレキシグラスのシートを、フレームには白く塗装したバーチのプライウッドを用いています。この白色のプレキシグラスとプライウッドによって、私たちの目に映る色も変わってくるのです。調光するとわかりやすいのですが、明るくすると黄色が強く感じられますよね。蛍光管自体は同じ光を放っていても、プレキシグラスを通すことで色が変わって見えるのです。

また、LEDは、見た目には明るく感じられますが、光自体が強いわけではなく、点としてのシャープな光だからです。極小のたくさんの点から成り立っているLEDライトは、シャドーがたくさん出てしまうという照明としては避けたい側面もあります。それでデュフューザーを用いてシャドーを消すわけですが、完璧には実現できず、たくさんのライトソースがあることはわかります。その問題解決のために今研究している最中です。デュフューザーの新しい形をデザインすることで、大気が太陽光を分散させるような、自然の光に近い照明器具をつくりたいと考えています。

自宅でもずっとこういうことを考えたり、研究していて、変な人と思われてしまうかもしれませんが(笑)、自身でデザインする場合は常にこういったことを考えます。

先ほどの「もっとデザインしたくないか」という問いに応えれば、照明器具と家具はアルテックだけにしかしていないし、したくもないと言えます。けれど、空気清浄機などのそのほかの製品は、アルテック以外の企業のためにデザインしています。それらが自分のなかで互いに関連し合っていることが面白いのです。

もちろん、これら以外にも、興味のあるテーマはたくさんあります。例えば、「フィンランドでは、テニスの球のスピードがなぜ遅くなるのか」とか(笑)。アルテックの社名の由来は、アート+テクノロジーなので、これらの興味は相応しいテーマと言えるのではないかと思います。


▲ ヴィッレ・コッコネン(Ville Kokkonen)氏。1975年ヘルシンキ生まれ。トロントのオンタリオ・カレッジ・オブ・アート&デザインと、ヘルシンキ・アート&デザイン大学(現アアルト大学)で学ぶ。2001年、ヘルシンキ・アート&デザイン大学のスマート・プロダクト・リサーチ・グループの研究者となり、06年にアルテックの研究開発マネージャーに。09年より同社デザインディレクターを務める