ヒルサイドフォーラム&ギャラリー
「ノルウェージャン・アイコンズ」

ノルウェーのミッドセンチュリーデザインを紹介する展覧会NORWEIGIAN ICONS TOKYOが、東京・代官山のヒルサイドフォーラム&ギャラリーで開催中だ。

会場では1940年〜1975年の作品を中心に、家具やガラス、陶芸、アクセサリーなど約500点を展示する。作品はリビングやダイニングといったシーンとしてスタイリングされ、デンマークやスウェーデン、フィンランドとは異なる、ケルトの影響を強く感じさせる独自の手工芸的な雰囲気を伝えている。

▲ 会場は、間仕切りの役目を果たすポールを森のように見立て、作品を点在させる

▲ シグード・レッセル(Sigurd Resell 1920〜2010)の肘掛け椅子「Falcon」(1971年)
机上のガラスは、ベンニー・モッツフェルト(Benny Motzfeldt 1909〜1995)の作(1971年)

▲ ハンス・ブラットルゥ(Hans Brattrud 1933〜)による、当時画期的であった成形合板の加工技術を採り入れた「Scandia」(1961年)

▲ スヴェン・イーヴァル・デュステ(Sven iver Dysthe 1931〜)によるFRP製の椅子「Popcorn」(1968年)
ノルウェーのプライベートギャラリーのために300脚だけつくられたが、90年代はじめに交代したオーナーがアルネ・ヤコブセンの「セブン・チェア」に取り替え、そのほとんどを廃棄してしまったという

本展の特徴は、家具と同年代のアートや写真作品も一緒にコーディネートしている点。アート作品を含め展示作品のほとんどは購入可能で、来場者にデザインのみならずノルウェーカルチャーの魅力を存分に伝える内容となっている。

▲ ノルウェーの歴史あるアートディーラー「ブロムヴィスト(Blomqvist)」の協力で、同年代のアートや写真作品を採り入れた展示

▲ フレドリク・カイセル(Fredrik Kayser 1924〜1968)によるチークとローズウッドのキャビネット「Hertug」(1960年)

▲ 陶器やガラスを紹介するスペース。壁面を飾るのは、生誕150周年を迎えたノルウェーの芸術家、エドヴァルド・ムンクの版画

▲ ビョルン・エンゴ(Bjorn Engo 1920〜1981)によるアルマイトのカラフルな作品(1955年)

▲ 会場にはプリミティブな雰囲気を残す木のオブジェも点在する。これはアーティスト、デザイナー、職人として活動したアルネ・リンドース(Arne Lindaas 1924〜2011)の「Bird」(70年代)

本展を企画したのは、1963年創業のオスロのカフェ「フグレン(Fuglen)」の共同経営者たちだ。2008年にノルウェーのヴィンテージ家具店を営むペッペ・トルルセンさんがフグレンにも携わるようになり、同カフェはノルウェーヴィンテージと上質なコーヒーを楽しめる空間として知られるようになった。12年には東京・富ヶ谷に2号店をオープンしている。

▲ オスロのフグレン店内。ミッドセンチュリーのノルウェーヴィンテージを配した空間 ©Fuglen

▲ 2012年、オスロに続く2号店が東京・富ヶ谷にオープン。古民家を改築した店内はオスロ本店と同じようなインテリアだ ©Fuglen

▲ 本展企画者である、フグレンの共同経営者たち(左から3名)と、ブロンクヴィストのヴィンテージ・エキスパート(右)

▲ ペッペ・トルルセン(Peppe Trulsen)さん。フグレンのオーナーのひとりで、ヴィンテージデザイン部門のマネージャ−。本展では、家具のキュレーションを担当

トルルセンさんは、本展のきっかけについて、フィリップスというオークションハウスで開かれた北欧デザインの展示企画において、ノルウェーが全く触れられていないことに呆気に取られたという。「北欧デザインで、デンマーク、スウェーデン、フィンランドは有名なのに、自国民ですらノルウェーのデザインを認識していない。これはとても問題だと感じた」。

一方、東京では、60年代に白木屋(現・東急百貨店日本橋店)で初めてノルウェーデザインが紹介されたという。当時の企画に関わった島崎信教授(武蔵野美術大学名誉教授)は、「1958年のブリュッセル万国博でノルウェーデザインに触れ、北欧デザインの大きな柱になっていると感じました。東京での展覧会のために、私と柳 宗理さんがオスロで一緒に商品を買い付けたりなどして、思い入れが深い」と振り返る。

「愛・地球博」(名古屋、2005年)やリビングデザインセンターOZONE(東京、2005年)でノルウェーデザインの展覧会が開かれたが、それ以降、大きく紹介されることはなかった。島崎教授はその理由の1つとして、「70年代に北海油田が開発され、ノルウェーはエネルギー産出国に転じた。経済的に豊かになったことで海外製品を輸入するようになり、ガラスや家具などの工場が皆なくなったのです」と説明する。

その後ももちろん、ノルウェーのデザインビジネスは独自の道を歩み、特に近年若手デザイナーの国際的な活躍に関心が集まっているという。本展は、人々がノルウェーデザインに興味を持つきっかけづくりを目的とし、カフェという場やカルチャーを通じてヴィンテージの魅力を伝えていこうという活動の一環なのだ。今年1月のオスロを皮切りに、東京の後はニューヨークへ巡回する。

島崎教授も「フグレンが自国のアイデンティティとしてノルウェーデザインを掘り起こしてくれることは嬉しい。日本にとってもノルウェーにとっても刺激になるはず。かつてはノルウェーにデザインなんてあるの、と聞かれたこともあった。今は『言ったとおりでしょう!』という気持ちです」(笑)とエールを送った。(文・写真/今村玲子)

▲ 複数の作家の器を織り交ぜた、食卓のスタイリング

▲ ベンニー・モッツフェルト(Benny Motzfeldt 1909〜1995)、アルネ・ヨン・ユートレム(Arne jon Jutrem 1929〜2005)らによるガラス工芸も多数展示

▲ アクセサリーの展示も。1959年に設立されたステュディオ エルセ&パウル(Studio Else & Paul)によるジュエリー(60〜70年代)

▲ ノルウェーヴィンテージデザインのショーケースのような展示だ


NORWEIGIAN ICONS TOKYO [ノルウェージャン・アイコンズ]

会 期:2013年6月21日(金)〜7月7日(日)
    *会期中、休館なし
    *入場無料

時 間:11:00〜19:00(最終日は16:00終了)

会 場:ヒルサイドフォーラム&ギャラリー(東京都渋谷区猿楽町18−8 ヒルサイドテラスF棟)




今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。