21_21 DESIGN SIGHT
「カラーハンティング展」

21_21 DESIGN SIGHTでは、デザイナーの藤原 大さんをディレクターに迎え、色をテーマにしたデザイン展を開催中だ。

▲ 21_21 DESIGN SIGHTのエントランスに展示された「夏の音色」
女子美術大学に継承されるインディゴ染めによる短冊を付けた風鈴のインスタレーション

藤原さんは1994年に三宅デザイン事務所に入社、98年から三宅一生氏とともに「A-POC」プロジェクトをスタートさせ、2006年から11年にかけてISSEY MIYAKEのクリエイティブディレクターを務めた。現在は、色と素材をテーマにしたさまざまなクリエイション活動を各地で展開している。

タイトルの「カラーハンティング」とは藤原さんの造語で、自然や空間、モノなどの色を見つけて自ら調色し、採取するプロセスのこと。過去にISSEY MIYAKEでのクリエイションでも採用されたこともあり、藤原さんのライフワークとなっている。「一般の人がデザインに興味を持つきっかけとして、“色”という要素があるのではないかと思い続けてきました。展覧会会場での色に関するたくさんの事例を通して、皆さんの世界に対する見方が変わるのではないかと期待しています」(藤原さん)。

▲ 「空のいろ日記帳・午前 365色のカラーハンティング」(2012〜13年)
2011年の大震災をきっかけに1つの空の下に暮らしていることを実感して、毎日午前中の空の色を採集しはじめたという。会場には、1年分の空の色を「空のいろ日記帳」としてまとめた本(グラフィックデザイン:イルマ・ブーム、編集:太田佳代子)も展示

会場は、藤原さんが今年3月3日に霧ヶ峰(八ヶ岳)に入り、白銀の世界で色を見つけるカラーハンティングを実践する映像からスタートする。そこで木や石の色を採取し、桃の節句にちなんだ雛人形を制作した。

▲ カラーハンティングのため霧ヶ峰に入った藤原さん。撮影は映像作家の山中 有さん

▲ 霧ヶ峰でハントしたカラーパレット

▲ 3月3日の霧ヶ峰の色でつくった雛人形。雛人形は造型作家・内藤三重子さんが制作

2012年には、セレンゲティ国立公園(タンザニア)で採取したライオンの色と、マサイ族が居住する土地の色を組み合わせて「ライオンシューズ」を制作。このように色を集めるだけでなく、それを作品なりプロダクトなり、何らかのデザインとしてアウトプットしていくことが活動のポイントでもあるようだ。

ライオンの色や大地の色は、それを取り巻くあらゆる環境や条件によって決まっている。1つ1つの色に情報と意味が含まれており、色について考えることはそのもののデザインについて考えることと同じというわけだ。そしてカラーハンティングした色を使って何かつくることは、採取したものの成り立ちやデザインコンセプトを移植する行為と考えることもできる。

▲ 「ライオンシューズ」のインスタレーション
ハントしたライオンの色で先染めした布を用い、カンペールが靴を制作。テーブルの赤茶色はマサイ族が住む大地の色

▲ 桐山孝司教授(東京藝術大学大学院)が、靴の動く仕掛けを担当

▲ ライオンから採集した色

本展では藤原さん自身のカラーハンティング活動のほか、さまざまな分野で色にまつわる活動をしている作家や企業、団体などと協力して制作された19作品を展示している。

「国家珍宝帳」という正倉院に納められた約650品目のリストには、それぞれの品の色が記されているという。東京工業大学の小見山二郎名誉教授はそれが全26色であることに着目し、特に多く登場する「緋」色について研究を重ねる。本展では20色の再現を試みると同時に、中島洋一さん(古典織物)、山崎和樹さん(草木染)の協力を得て、実際に制作した染織物を披露する。

▲ 「国家珍宝帳」
「できるだけ昔の材料や技術を使う」ことをコンセプトに、日本に残る最古種の蚕の繭から古来の方法で引いた糸を用いるなどプロセスそのものを再現した

東京工芸大学 大嶋正人教授の協力で、日本各地の湧き水や水道水、市販のミネラルウォーターなど49種の水質分析を行い、それらの水を使う以外はすべて同じ条件で49枚のハンカチを染めた。使用する水によって染めの色が変わることについて、藤原さんは「その土地にある情報が色によって顕在化したといえます。これからは土地の違いということが価値になっていくと思う」と話す。

また統計学、サイエンスからのアプローチとして、アンケートを解析して言葉と色の関係についてもビジュアライズした。

▲ 「みずいろハンカチ」

▲ 「204のことばに12色をあてはめるアンケートの集計結果」
東京と神奈川の美術大学に通う女子大生200人以上にアンケートをとり、その結果をコレスポンダンス分析と呼ばれる市場調査での分析手法を用いて解析し、平面にまとめたもの。言葉と色の関係を可視化する

▲ 「カラーボキャブラリ」
コレンスポンダンス分析の結果を三次元で表現した立体作品。藤原さんは「色で気持ちを表現する時代が来るかもしれない」と話す

ほかにも沖縄のビーチで採集した色の波長を音に変換した作品や、苔の一種から採取した銅の色を使って指輪にした作品。あるいは形や概念にとらわれず、目に見える色そのもののを楽しむ作品など、色という要素がさまざまな分野をつなげ、ものづくり、コトづくりの可能性を広げていく事例を数多く紹介している。(文・写真/今村玲子)

▲ 「カラーシューティング」(高草木博純+舩木展子)
電子銃で壁に色をぶつけるゲーム感覚の作品


21_21 DESIGN SIGHT 企画展 藤原大ディレクション
「色からはじめるデザイン カラーハンティング展」

会 期:2013年6月21日(金)〜10月6日(日)
時 間:11:00〜20:00(入場は19:30まで)
休館日:火曜日
入場料:一般1,000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料
会 場:21_21 DESIGN SIGHT




今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。