東京藝術大学大学美術館陳列館
「マテリアライジング展」

ジェネラティブ・アート、アルゴリズミックデザイン、コンピュテーショナルデザイン——。近年、デジタル技術やプログラミングをベースにしたデザインプロセスや造形のあり方が注目されている。

東京藝術大学大学美術館陳列館で23日まで開催されている「マテリアライジング展」は、建築やデザイン、工芸、アートといったさまざまな分野で取り組まれている新しい表現を紹介する展覧会だ。

建築家の砂山太一さん(東京芸術大学院構造計画研究室)と大野友資さん(ノイズアーキテクツ)が共同企画で、国内外23組が呼びかけに応じて作品を出展する。

砂山さんは「もともと自分が取り組んでいたコンピュテーショナルデザインの展示をどこかでしたいと思っていたんです」ときっかけを話す。「ある日、自分で展示を企画すればいいじゃないかと思い立って周囲に声をかけたのがはじまり。デジタルの情報と物質化されたアウトプットとの間にある作家の制作プロセスや思考を作品として見せたい、という考えからマテリアライジングというタイトルにしました」。

出展者は建築分野だけでなく、プロダクトデザインやメディアアート、工芸など幅広い。後援者のひとり、東京藝術大学の金田充弘准教授が「新しいデザイン、ものづくりの可能性を示す展覧会。それぞれの出展者が自分なりのマニフェストを掲げ活動している」と話す。

例えば、土岐謙次さんは3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションと奈良・平安時代の乾漆技法を組み合わせて新しい器の可能性を探り、折紙作家でもある舘 知宏さん(東京大学情報理工系研究科特任研究員)は独自に開発した「Freeform Origami」システムを用いて、あらゆる曲面を鏡板の折りと曲げのみで形づくる。

▲ 土岐謙次「七宝紋胎乾漆透器」

▲ 舘 知宏「フリーフォーム・オリガミ」

建築家でFabCafeのディレクターを務める岩岡孝太郎さんは、レーザーカッターでバルカナイズドファイバー紙を切り出してカーテンを制作した。「暑さ、心地よさ、適切さ」の感覚値をデジタルモデルの変数に置き換え、モジュールの形をつくり出したという。

▲ 岩岡孝太郎「knitting paper module<アミガミ>」

▲ ノイズアーキテクツ「線入力三次元ボロノイ図形による構造体のスタディ」
図形の生成プログラムを作成し、複雑な幾何形体を自由に生成できるようにした。そのうえで、そこにどういった情報を組み込むことができるか実験を繰り返す。

木内俊克さんと砂山太一さんによる「PU」は、超軟質ポリウレタン樹脂のなかに骨材となる木片を並べ、内部に生じる不均衡な力によってどのような変形が起きるかを実験する作品だ。「樹脂に興味を持って研究を続けているので、本展は発表のよい機会になった。将来的に新しい建材や建築の可能性につながれば」と木内さんは抱負を語る。

▲ kwwek(ケーダブルダブルイーケー)木内俊克 + 砂山太一「PU」

▲ 今井紫緒「Trepak〈くるみ割り人形〉」
指揮者の手の動きの軌跡をモーションキャプチャで計測し、3Dデータとして造形出力。手ではつくれない形の表現を目指す。

本展には、何らかの言葉や定義によってこれらの動きをまとめようという意図はないという。ただ、個別の取り組みを集合知として1つの空間に置いて俯瞰すると、若いクリエイターたちの表現の間には共鳴する“何か”があるような気がしてくる。(文・写真/今村玲子)

▲ アンズスタジオ(竹中司、岡部文)「ニューロ・ファブリクス」
次世代型建築モジュール。複数のプログラムやデジタルファブリケーションを連動させた、新しいものづくりの手法の提案でもある。

▲ マイケル・ハンスマイヤー+ベンジャミン・ディレンバーガー「デジタルグロテスク」
建築におけるコンピュテーショナルデザインを先端的に実践する建築家ユニット。自然と人工、混沌と秩序の間にある「デジタルグロテスク」という独自概念を表した作品。

▲ 「マテリアライジング展」の出展者たち。


「マテリアライジング展 情報と物質とそのあいだ/23名の建築家・アーティストによる思索」

会期 2013年6月8日(土)〜6月23日(土)
   10:00〜17:00
   *入場無料

休館 月曜

会場 東京藝術大学大学美術館陳列館




今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。