日本の力を試すーPVCデザインアワード 2013/前編

2012年の受賞作品展より。

PVC(ポリ塩化ビニル)を素材にデザイン提案を公募する「PVCデザインアワード2013」が現在作品募集中である(8月7日まで)。PVC関連団体の卸組合、加工組合、素材メーカーが合同で主催するこのアワードの目的は、PVCへの認知普及と新製品の開発だ。3回目を迎えた今年、応募者にどのような提案を期待するのか。

今年のテーマは「ソフトPVCで日本の力をためす」。第1回の「新たに切り拓くPVCの可能性」、第2回の「社会に求められる○○×Soft PVC」という過去のテーマを踏まえ、今回は市場へ提供可能なレベルの新製品づくりを目標に掲げる。主催団体の1つである塩ビ工業・環境協会の一色 実氏は次のように説明する。「1回目は学生中心に面白いアイデアが、2回目はプロデザイナーによるレベルの高い作品が集まりました。一方で製品化となると、PVCの機能や加工技術への認知度がまだまだ低いというのが正直な印象。そこで今回はある程度素材の特性を理解したうえで応募してもらえるように準備したいと考えています」。

第2回大賞の「PUSHION」は中央の弁を開くだけで自然と空気が入るというクッション。今後の商品化が期待されている。

日用品として普及したPVC

そもそもPVCとはどのような素材なのか。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンと並ぶ、四大汎用プラスチックの1つで、日本では戦後の物資不足を補う材料として1950年代から成型加工工業が本格化した。当初は軟質塩ビ(ソフトPVC)を使った「ダッコちゃん」などの玩具やビニール傘といった日用雑貨から一般家庭に普及。その後、硬くて耐久性のある硬質塩ビが配管や波板などの建材土木用に採用され、農業や自動車など多分野に展開していった。ところが90年代に焼却処理施設で高濃度のダイオキシンが検出され社会問題に。材料の6割が塩素であるPVCが発生源ではないかと過度にバッシングされ、さらにPVCに配合する可塑剤の安全性が問われるうち、急激にほかの材料への切り替えが進んでしまった。

現在では焼却条件の見直しや焼却炉の改良整備も進み、各種試験によって可塑剤の安全性も確認されて、誤解や偏見が払拭されてきたが、日用雑貨などの塩ビ製品は海外生産へ移行したままだ。こうした状況のなか、一色氏は「PVCの用途は裾野が広いので、今の日本のものづくりを元気にできないかと関係団体を回ってコンテスト開催を呼びかけた」というわけだ。

第2回優秀賞の「エアーディンプルボール」は、内側には硬めのPVCシート、外側には柔らかめのPVCシートを使った二重構造が特徴。内側には小穴が空いていて、空気を入れると、外側が押されて凸型のディンプルをつくる。幼児や子供でもコントロールしやすく、距離が出るため、新たなスポーツ競技の提案などが考えられる。

PVCならではの特質を生かす

昨年のコンテストで242作品のなかから大賞を受賞した「PUSHION(プッション)」と優秀賞の「エアーディンプルボール」はPVCの卸会社である三洋の社員が応募したものだ。「PUSHION」は扁平の浮き輪形状の中身を中央に弁のある表皮で覆った二重構造で、弁を開くだけで自然と空気が入るというクッション。開発した鈴木伸也氏は業務の合間に社内の試作室で応募作品を練り上げた。

「PVCで新しいアプローチの座布団をつくってみたかったんです。材料の柔軟性と強さを追究してどんどん形がシンプルになっていくランナー用義足のように、PVCの性能を最大限に引き出せるデザインを目指しました」(鈴木氏)。一色氏も「PVCは可塑剤を混ぜることで硬さを変えることができます。この作品はPVCならではの柔らかさや丸みのある形を追究した点が評価された。試作を何度も繰り返した努力が表れています」と話す。

また山崎正彦氏と藤竿拓也氏が開発した「エアーディンプルボール」は内側には硬めのPVCシート、外側には柔らかめのPVCシートを使った二重構造が特徴。内側には小穴が空いていて、空気を入れると、外側が押されて凸型のディンプルをつくる。ゴルフボールのように表面に凹凸を設けることで乱気流を発生させ、飛距離とコントロール性を向上させたビニールボールだ。

ソフトPVCの加工は主に高周波による熱溶着で行う。重ね合わせたPVCシートを真鍮の金型で押さえて電流をかけることで、PVCの内側から溶けて一体化する。接着剤と異なり境界線が生じないため、材料の強度を保持できるメリットがある。こう書くと簡単そうだが、実際はPVCの厚みや硬さに応じた加熱時間や電圧などのノウハウが必要である。これらの作品は普段から材料に触れ、加工法を熟知していたからこそ到達できた完成度といえる。(後編に続く)

ソフトPVCの特性
1 弾力性があり、柔らかい
2 透明感があり、発色がよい
3 樹脂の安定度が高い
4 可塑剤によって厚みや硬さを自在に変えられる
5 折り曲げても クラック(ひび)が入らない
6 さまざまな材料を混ぜ、 機能をもたせることができる
7 粘着性がある

応募詳細は同アワードのホームページまで。PVCの特性などの問い合わせにも対応可能です。

PVCの特性については、連載「デザイナーのための塩ビの教科書」もご覧ください。