「こいずみ道具店」、リニューアルオープン

4月、デザイナーの小泉 誠さんが東京・国立に「こいずみ道具店」の新店舗をオープンさせた。家具のショールームである旧店とともに、新店舗では食器やキッチン道具といった日用品を中心に取り扱う。

場所は、旧店から1分ほどの「桜通り」と「大学通り」に面した交差点。築50年の木造2階建の靴店をリノベーションした建物で、黒壁に桜並木の新緑が映える。「桜が咲いているともっときれいですよ。季節を感じられる場所なんです」と2階から顔を出した店主の小泉さんは言う。

▲ 新店舗は桜並木に面している絶好のロケーション

▲ 既存の店舗の構造を生かした

▲ ポストを兼ねた小さな看板。雨が入らないよう金物部分に傾斜をつけている

▲ 小泉 誠さん


デザイナーのこだわりを貫いた空間

小泉さんが手がけた家具や小物を展示販売する店舗として、「こいずみ道具店」をこの地に開店したのは10年前のこと。「当時から、さまざまな産地とものづくりをしていたのですが、自らを含めてデザイナーがリスクを負っていないことが気になっていた」と小泉さん。

メーカーは試作をつくったり手を動かしているのに、デザイナーは売れなければ売れないで終わり。そんなスタンスではいけないと、「自分できちんと人々に伝えるため」に店という場を検討した。また「国立に30年くらい住んでいるのですが、ほかの地域の仕事ばかりして、この街に対して開いていないことも気になっていた」と言う。

店を運営してみるとつくり手との関係がより一層深まると同時に、ほかの販売店や小売店が興味を持って訪れ、同じ「伝える仲間、売る仲間」としてのつながりが生まれたという。遠方や海外から、はるばるやってくる人もいる。「お客さんが喜んでくれる言葉を直接聞くことで嬉しくなるし、力になる」。

店が順調となる一方で、在庫や試作が増えて空間が手狭になった。そんな折り、たまたま近所の靴店が閉店し、建物ごと売りに出されていたのを見つけた。「この辺りは50年ほど前に初期の公団住宅が建設されて商店街もできた。当時からの建物はこの靴店くらいで残したいという気持ちもありました」。

もとの構造をできるだけ残しながら必要に応じて補強、さらに別棟を建てて倉庫兼工房とした。1階が店舗スペースで、壁面に小物を展示する什器や棚を配している。コンパクトな空間ながら、収納を建物と一体化させることで、全体が広く感じられる。製品だけでなく国内外の骨董市で見つけた古道具なども展示し、また、扉の金物やはしごに使った古材など、空間を構成する素材1つ1つに小泉さんのこだわりが貫かれている。

▲ こいずみ道具店の内観

▲ グリッドの展示棚に商品が並ぶ。背部の照明によって製品のシルエットが浮かび上がる

▲ 店内奥の小さな棚にはフラワーベースや革の小物、懐紙などをディスプレイ

▲ 靴店の道具をサインに転用

▲ かつて使われていた旧い水栓金具を再利用。小さなスペースも「憩い」の場に


居心地のよいオフィスフロア

2階はスタッフのオフィスだ。中2階には、倉庫や水回りをまとめたコアを設け、その上部は多目的に使えるロフトスペースとした。窓際のデスクからは、さわやかな新緑の風景を臨むことができる。

「この建物でいちばん気持ちがいいのはデスク周り。そこはスタッフが常にいる場所にしたいと思った」と小泉さん。キッチンツールをデザインする機会が多いため、台所も広く確保。ここでスタッフがランチやデザートの腕を振るい、昼時には可動式デスクが賑やかな食卓に様変わりする。

▲ オフィスフロアへ続くはしご。このはしごも小泉さんのデザイン。踏み板の角度に工夫がある

▲ 2階のオフィスフロア。奥のコア(一段上がったロフトスペースの下部分)が倉庫および水回りスペース

▲ ロフトは、スタッフの休憩など多目的に使える。既存の梁や柱をなるべく残しながら補強。壁にはシュレッダーにかけた紙を練り込んで再利用した

▲ ロフトからオフィススペースを見下ろしたところ

▲ オフィススペースには可動式のテーブルがあり、打ち合わせや食事など用途によって移動させる

▲ 3階には3畳ほどの和室も設けた

別棟の一部には小さな工房を設けた。工房の併設は小泉さんのかねてからの希望で、「自分の手でものをつくる空間を持つことで、ものづくりの考え方も変わっていくかもしれない」と話す。

実際に鹿児島の職人と始めた竹製品プロジェクトの試作を工房でつくっている。材料とじっくり向き合いながら試行錯誤するうちに自然とあるべき形が見えてくるという。「自分の手でつくっていると本当に欲しかったものができたりするんです。手でつくるクラフトの感覚と、頭で考えるデザインとのバランスや折り合いを見つけられたら面白いと思う」。新しい場所を求めたことが、デザイナーとしての変化にもつながっているようだ。(文・写真/今村玲子)

▲ 1階の奥に続く別棟には小さな工房と倉庫があり、木工用の機械が並ぶ。地下にも収納スペースを設けた

▲ 旧店は家具専用の店舗として、現在も営業中


こいずみ道具店
〒186-0003 東京都 国立市 富士見台 2-2-31
Tel: 042-574-1464 Fax: 042-574-1467
営業時間:15:00〜18:00
定休日:不定休




今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。