REPORT | 建築
2013.04.19 13:23
建築家・中村好文さんの個展がTOTOギャラリー・間で開催中だ。
「人の住まい、暮らしとは何かを突き詰めていくと小屋に近づいていく」と話す、自称「小屋好き建築家」の中村好文さん。最初の小屋体験は6歳の時。足踏みミシンの台から新聞紙を垂らして壁をつくり、なかに座ってラジオを聞くのが好きだったという。生まれ育った千葉・九十九里の防風防砂林で木のぼりに夢中になった少年時代。良さそうな枝ぶりを見つけて木の板を置き、マンガなどを持ち込んで、夕方になるまで過ごしたという。
今回の個展ではそんな中村さんのルーツである「小屋」をテーマに構成。鴨長明の方丈やル・コルビュジエの休暇小屋など、中村さんに影響を与え、学生時代から時間を見つけては訪ね歩いた7つの小屋を紹介する。同時に、2005年から仕事の合間に友人たちと手を入れ続けている長野・浅間山麓の「Lemm Hut」など小屋づくりのプロセスを公開する。
▲ 3階の展示室では、中村さんが影響を受けた7つの小屋を紹介
▲ 1962年に太平洋を横断した堀江謙一氏のヨットも「洋上の一人暮らしの小屋と考えることができる」と中村さん。サンフランシスコの博物館の許可を得て、実物のヨットに乗り込んで体感したという。本展ではヨットの模型とキャビン内部の写真を展示
ギャラリーの中庭には、風力と太陽光によるエネルギー自給自足型の一人暮らし用の小屋を展示。展示といっても本格的な小屋で、会期終了後には移築して中村さん自身で使用する予定だ。建設の際には同ギャラリー初の地鎮祭も執り行われたそう。
「居場所をしつらえるだけでなく、そこでの行為も大切」と考える中村さんは、3m×4.2mほどの小屋のなかに自身の荷物を実際に持ち込んで展示する。いくらかの書籍と数着の衣服、ワインボトルは1本。それらをぴったり収納するための備え付けの家具や可動する照明もデザインした。
身の丈サイズのつつましい空間ではあるが、かえって静かな思索の時間を過ごせそうな印象を持つ。必要最低限というよりは、“必要十分を探る”という考え方。豊かさとは広さや数ではない、ということを小屋は教えてくれる。
▲ 中庭につくられた一人暮らし用の小屋「Hanem Hut」。小屋の名前は関係者の名称などに由来する
▲ 屋根の上には風力発電と太陽光による「エネルギータワー」が備わっている
▲ 一人用のリビングスペース
▲ リビングスペースのための照明器具も設計した
▲ キッチンスペース。七厘レンジを備えている
小屋と家の違いについて同氏は、本展にあわせて出版された新著『中村好文 小屋から家へ』(TOTO出版)のなかで「床面積が小さく、ワンルームかワンルームに近い簡素な間取りであること」「建物の内部、外部ともに簡素な材料でつくられていること」「その中で人の暮らしが営めること」などいくつかの条件を記してはいる。しかし、あえて細かく定義することは避け、小屋好きの人と一緒につくりながら、話しながら考えていきたいというスタンスが見てとれる。
実際、中村さんも「長野のLemm Hutで過ごすときは、大工仕事か畑仕事をしているので休む間がない」と打ち明ける。小屋づくりのプロセスを伝える映像では、大工と一緒になって家族や友人も手を動かす。一仕事が終わった後にみんなで囲む食卓は、笑い声が絶えずに楽しそうだ。ここで勝手に小屋の条件を付け加えるなら、「自分たちの手でつくれること」も大切なのかもしれない。(文・写真/今村玲子)
▲4階の展示室では「Lemm Hut」など、これまでに取り組んできた小屋づくりのプロセスを紹介
▲ 「Lemm Hut」で実践しているエネルギー自給自足システムのスケッチ。「屋根の勾配のように、建物が働く仕組みが見えたほうがいい」と中村さん
▲ 会場に展示されたスケッチにも、小屋に持ち込むものがリストアップされている。1962年にヨットで太平洋を横断した堀江謙一氏も搭載品を書き記しており、中村さんは少年時代にそれを繰り返し読んだという。小屋を設計することは、ものに溢れた普段の生活を見直し、自分にとって本当に必要なもの確認する作業といえるかもしれない
「中村好文展 小屋においでよ!」
会 期:2013年4月17日(水)〜6月22日(土)
時 間:11:00〜18:00 金曜日は19:00まで
休館日:日曜・月曜・祝日
会 場:TOTOギャラリー・間
*入場無料
今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。