vol.34 ワールド・キッチン
「エコ-フリップ」

ガラスという素材は、化学的に安定していて、錆びることなく薬品にも侵されにくい優れた特性を持つ。そのため、樹脂素材が普及する以前から液体の容れ物として、ワインやビール、清涼飲料水のボトルに応用されたり、ピッチャーのような製品として家庭内やレストランなどで使われてきた。

しかし、一方では、特殊な強化ガラスを除けば脆く割れやすいという性質もあり、一般的なボトルや製品では、壁を厚くして強度を確保する手法が採られている。

これまで、飲み物を再利用可能な容器に入れて携帯する、いわゆるエコボトル的な利用に向けた製品には、重量や強度面から金属が用いられることが多く、アルミ素材の場合には腐食や溶出を防ぐために内部をコーティングしたり、口金部分により堅牢な別の金属を埋め込んで耐久性を上げるなどの工夫が必要だった。

ガラスの食品に対する安全性の高さに改めて着目したシンガポールのワールド・キッチンは、熱膨張率の低いボロシリケイトガラスを用いることで、温度変化による割れを防ぎ、カラフルなシリコーンスリーブによって、耐ショック性を高めた「エコ-フリップ」を開発。直径は自動車のカップホルダーに収まるサイズとし、3つのくびれを設けて強度とグリップ性を高めるなど、外に持ち出すことを強く意識してデザインした。

キャップのハンドルは、携行時に役立つほか、脱着の際に力が入れやすくなるメリットをもたらし、漏れを防ぎながらもワンタッチで開く機構が、スピーディな水分補給を可能にする。
 
目的に対して、一見、適合しないのではと思える素材であっても、再検討することで新たな製品のあり方が見えてくることもある。エコ-フリップは、その好例と言えるだろう。




大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。