REPORT | ファッション
2013.04.12 11:19
ファッションブランド、Eatable of Many Orders(エタブルオブメニーオーダーズ、以下エタブル)による2013-14秋冬コレクション「Bakery」が東京・恵比寿のギャラリーで発表された。
▲ 鎌倉のベーカリー「パラダイスアレイ」がつくったパン製のコレクションの看板
▲ 2013-14秋冬コレクションのためのリサーチスクラップブック。パンの歴史に関する切り抜きなどが集められている。「中世では、パンは食べ物であると同時に看板や道具としても使われることがあったようです」と新居幸治さん
エタブルは、多摩美術大学で建築を学んだ後アントワープ王立芸術アカデミーのファッション科を卒業した新居幸治さんと、ベルギーのファッションデザイナー、ベルンハルト・ウィルヘルムに師事していた新居洋子さんが、2007年に帰国して設立。2008年に現在のブランド名を掲げた。その名の由来は宮沢賢治の『注文の多い料理店』から。文字通り「食べられる服」をコンセプトに、金具はなるべく使わず、なめし革や草木染めといった天然由来の素材にこだわった服づくりを続けている。
▲ 金具を使わず、木と革のみの「ハンガーバッグ」。什器や展示台などもデザイナーの手づくり
▲ パラダイスアレイが焼き上げたパンを蓋にしたコンセプチュアルなバッグ「PARADISE ALLEY BAG」(参考商品)。木と革の鞄、小物は、すべて熱海のアトリエで1つ1つ製作される
前シーズンまでの3シーズンは、宮沢賢治の物語に着想を得てコレクションを展開してきたが、今年の秋冬のテーマは「パン屋」。ベルギー滞在中のふたりが「パン」を起点にイメージを膨らませ、もち米や布海苔を使って子供用の革靴をつくり展示したことが、エタブルを立ち上げるきっかけとなった。創立5周年を迎えて、改めて「食べられる」というコンセプトに立ち返るだけでなく、歴史や宗教においても重要な役割を担ってきたパンをテーマにしたという。
素材はほぼ国産のものを使っているが、技法は岩手のホームスパンやラオスの織物など国や地域にこだわらない。展示会では、旅や人とのつながりを通して出会った素材と技術を積極的に採り入れたコートやニット、ワンピースなどを披露した。
▲ レディースとメンズを展開する2013-14秋冬コレクション。パンだけでなくテーブルクロスやエプロンなど食卓にまつわるものをモチーフにした作品が並んだ
▲ 岩手のホームスパンの生地を使ったポンチョ「BREAD PONCH」。もこもことした織り目がパンのよう。ココナッツにエナメルを塗布したボタンはジャムをイメージしたオリジナルで、ロサンゼルスのボタンメーカーが製作する
▲ 「パンにジャムを塗ったイメージでつくった」というコットンに柿渋を塗布したアウター「BAKED COAT」。時を経た革のような光沢と味わいがある
▲ ラオスの織物を使ったアウター「FARINE JACKET」には、革を丸めたクロワッサンのようなボタンがついている。インナーはオーガニックコットン
▲ 今シーズンはニット類も充実
活動当初から静岡県熱海市が拠点。ふたりの出身地は東京と愛知だが、たまたま近親者から空き物件を紹介され、帰国後すぐに居を構えた。自分たちの服づくりの場が東京である必要性は感じなかったという。シーズンごとに東京とパリで展示会を開き、セレクトショップのバイヤーや顧客と直接対話しながら、自分たちの考えを知ってもらうよう努めているそうだ。
一方、熱海では、毎年ゴールデンウィークにアトリエを期間限定ショップ「山猫軒」として開放し、地元の人や東京方面からの顧客でにぎわうという。また熱海の芸妓見番(げいぎけんばん)でファッションショーを行ったり、地元クリエイターたちと展覧会を開催するなど、服づくりを通して熱海の人々や文化との交流をゆっくりと育むことも彼らの重要な活動になっている。(文・写真/今村玲子)
会期:2013年5月1日(水)〜6日(月祝)
時間:10:00〜18:00
場所:エタブル熱海アトリエ(JR伊東線伊豆多賀駅から徒歩約7分)
*最終日の5月6日(月祝)には、アトリエ近所の「そば処多賀」で、友人の能楽師を招いて特別企画のお能ワークショップを開催する。
今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。