ダイソンによるサイクロンクリーナーの登場は、掃除機業界にとって大いなる刺激となった。いや、当初、そのテクノロジーとデザインは大手メーカーには見向きもされず、実際に業界にインパクトを与えるまでにはそれなりの年月を擁したわけだが、今では他社からもサイクロンを謳う製品がいろいろと登場し、紙パック式と市場を二分するまでになっている。
もちろん、サイクロン方式であればどれもが同じ技術かと言えば、そうではなく、ダイソンの場合には、いわばダイソン方式と言えるものを確立して、独自のブランドと定評を築くことができたわけだ。
しかし、ここにきて、そのダイソンも気づかなかった掃除機の特性に着目し、新たな構造を産み出したメーカーがある。それが、ニック・グレイという発明家の手によってイギリスで創立され、2012年にアメリカ法人も設立されたジーテックだ。
グレイは、吸引部とモーターが離れていて、その間をホースや樹脂チューブがつなぐ従来の掃除機の構造が効率の低下を招き、強力なモーターの必要性や、コードレスにした際のバッテリー駆動時間の短さを招いていると考えた。そして、吸引部のすぐ後ろにモーターユニットを置き、ゴミの移動距離をわずか4センチメートルに抑えることで、効率を最大限にまで高め、全体重量も一般的な製品の約半分に減らした「エアラム」(349.95ドル)を完成させたのだった。
エアラムは、わずか3.5キログラムの重量で、他の充電式掃除機の駆動時間が10~15分のところ40分も稼動させることができ、標準装備されたUSBポートでコンピュータに接続すると消費した電力やバッテリーのコンディション、ユーザーが消費したカロリーなども取得可能だ。
一方でこの製品は、フロア用の掃除機であり、そのパーツ構成上も例えば隙間用のアタッチメントなどを付けることができない。したがって万能ではないが、1つの方向性を示していることは確かであり、今後は多様なバリエーション展開も行われるだろう。ジーテックが、第二のダイソンにならないとは、誰にも言えないのである。
大谷和利/テクノロジーライター、東京・原宿にあるセレクトショップ「AssistOn」のアドバイザーであり、自称路上写真家。デザイン、電子機器、自転車、写真に関する執筆のほか、商品企画のコンサルティングも行う。著書は『iPodをつくった男 スティーブ・ジョブズの現場介入型ビジネス』『iPhoneをつくった会社 ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化』『43のキーワードで読み解く ジョブズ流仕事術:意外とマネできる!ビジネス極意』(以上、アスキー新書)、『Macintosh名機図鑑』『iPhoneカメラ200%活用術』(以上、エイ出版社)、『iPhoneカメラライフ』(BNN新社)、『iBooks Author 制作ハンドブック』(共著、インプレスジャパン)など。最新刊に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)がある。